部活に来てくれ。

「瀧崎くん。一度くらい部活に顔を出せ、との事ですわ」

 肩を叩かれたので顔を上げると、横に立っていた赤松さんにそう言われた。
 今日はさっきまで本気で寝ていたらしい、まだ意識がぼんやりしている。
 んー、と小さく唸りながら、俺は欠伸が出そうな口をしっかり閉じながら考えた。

「……何で赤松さんが?」

 確かに俺は部活には行っていない。
 けれど、赤松さんは陸上部ではなかったはずだ。
 疑問に思っていた俺に、赤松さんは腕を組んで、俺を見下ろしながら続けた。

「亜紀お姉様が部活の顧問から受けた言伝(ことづて)ですわ」

 ……あー、うん、なるほど。
 取り敢えず理由は分かったので、へぇ、と曖昧な返事。
 返事と言うか呼応。
 改めて上体を起こし、んー、と背伸びをした。

「部活入っていましたのね」

 そんな俺に赤松さんが意外そうに呟く。
 うん、と頷いて、俺も答える。

「スポーツ特待枠だから、俺」

 本来なら、部活中心に学校生活送っていいわけだ。
 しかし、俺は入学してからまだ一度も、部活に参加したことがない。

「それ、普通なら既に退学案件なのでは?」

 怪訝そうに俺を見ながら、赤松さんは訊いてくる。
 うん、そうだね。
 俺自身、なぜ何のお咎めもなく学校に来ているのか不思議である。
 でも、不思議、という感情を抱いているだけで、原因は分かっている。

「てっきり部活はされていないのかと……生徒会役員ですし」

 ふぅん、と顎に指を添えて、赤松さんが呟く。
 この学校は生徒会役員だと、部活動は免除される。
 俺の様子を外から見ていれば、まぁ大体そう考えるだろうな。
 でも、今更なぁー……。

「もう11月ですよ~? 今更部活参加するのもなぁ」

 なんて、駄々を捏ねるように文句を垂れる俺に、赤松さんは答える。

「3年生が退部した後、1年生をみっちり育てられるのは今だけなのですって」

 ……あー、理由がちゃんとあるのか。
 さいですか、と再び机に上体を伏せながら答える俺。

 ……陸上部にとって、俺ってまだ勘定に入ってるんだな……。

「部活、何故行かれないのですか?」

 そのままの声色で赤松さんが訊いてくる。
 何でか、ねぇ。

 分かっているけど、それは改めて口に出して言いたくない言葉でもあった。
 自分から口にしたら、それは本当に効力を発揮し、呪いの如く俺を縛り付ける。

 あー、うん、などと曖昧に相槌を打って、返答を濁す。
 そんな俺に飽きたのか、赤松さんは溜め息をひとつ吐き、とにかく、と口を開く。

「わたくしは伝えましたからね。亜紀お姉様の面子を潰すような真似だけはしないでくださいませ!」

 腰に手を当てて、覇気充分に赤松さんは釘を刺した。
 へぇい、と適当に返しておいた。

 ……あの子も本当に亜紀にゃん先輩が好きなんだな。
 変な子、と思いながら、俺から離れる赤松さんから視線を外す。

 どーしようかなぁー。
 そんな発破掛けられても困るしなぁ。

 つうか、俺いつ部活やってるのか、具体的なスケジュールも一切知らないし。
 ……それでは部室に行こうにも行きようがないな。

 このまま無視する手段もあった。
 でも結局亜紀にゃん先輩とは生徒会で顔を合わせるし。

 仕方ない。
1/2ページ
スキ