ヤキモチ

「今日付けで生徒会役員に加わった、希咲(きさき)凌介(りょうすけ)くん。ちなみに今年の新入生ね」

 どきどきと緊張感を漂わせながらも、希望的な感情が見て取れる瞳をしている少年の説明を、会長は穏やかな口調でしてくれた。
 もうそんな時期かぁ、とわたしは案外軽く捉えていた。

 そんなわたしの傍で、同じく会長の説明を聞いていた逢坂くんが、ん、と何かに気付く。
 きさき、と探るような声色で呟く。
 それを聞いていた会長が、うん、と頷きながら続けた。

「前会長だった希咲先輩の弟さん。うちに入学したら生徒会手伝いたいって思ってくれてたみたい」

 にっこりと嬉しそうに笑う会長。
 希咲先輩、とわたしもその珍しい名字を復唱した。

 ああ、わたしたちが1年生だったときの、生徒会長だった3年生。
 会長を後任に選んで、逢坂くんやわたしにも指導してくれた人だ。
 あの人、弟さんいたのか。

 懐かしいねぇ、とわたしは感心したように呟く。
 しかしひとり、その会話に入って来られない奴がひとり。

「誰っすか?」

 今年度2年生になった瀧崎くんは、希咲先輩とは入れ替わりで入学した年齢なので、あの人を知らないのだ。
 きょとんとする瀧崎くんに、会長が簡単に説明している。
 理解してくれたらしい、なるほど、と瀧崎くんが納得している。

「兄から会長さんの話は聞いていました! 自分の受験もあった年だから、本当に助かったって」
「そんなに感激されることでも……」

 にこにこと楽しそうな笑顔の、希咲凌介くん。
 確かに、希咲先輩のときの生徒会って、ほぼ機能してなかったもんなぁ。
 そう考えると、会長って本当に救世主みたいな感じだったんだろう。
 そう改めて納得しながら、わたしは会長を見ていた。

「希咲凌介です。兄のように仕事をこなせるかは分かりませんが、宜しくお願いします!」

 そう、改めて挨拶をする希咲くん。
 ……名字で呼ぶと先輩とまざるなぁ。
 でもいきなりファーストネームで呼んでいいのかな。

 なんて、彼の自己紹介をまともに聞かず、そこで悩んでしまった。
 まぁわたしはそんなに関わらないような気がするけど……。
 と言うのも。

「大丈夫だってー。この人に指導されれば嫌でも仕事出来るようになるから」

 あははは、と笑いながら、冗談めかして瀧崎くんが言った。
 勿論逢坂くんを指差しながら。

 多分、瀧崎くんも含め、希咲くんの指導も逢坂くんが見てくれるんだろう。
 確かに瀧崎くんも去年生徒会に来たばかりの頃と比べると、かなり仕事がこなせるようになってるし。
 逢坂くんって教育係としての腕前あるんだね……。

「僕ももう少し貴方を鍛えようと思ってましたので、ちょうどいいですね」

 愉快に笑っていた瀧崎くんに、逢坂くんが冷静に告げた。
 まだ扱くつもりか。

 わぉ、と笑うのをやめて、瀧崎くんが不意打ちに驚いている。
 いつものペースであった。

「……で、彼女が生徒会の調整役、長田亜紀さん。魅耶の指導がつらかったら彼女に助けてもらって」

 会長が苦笑いを浮かべながら、希咲くんにわたしの紹介をしていた。
 はいっ、と元気のいい返事をする希咲くん。
 わたしも笑って会釈した。


「取り敢えず瀧崎くんひとりの運営は避けられましたね。あと数名誘ってくれると安心なんですけど」
「まぁー、それは追々ね。今は瀧崎と希咲のふたりに仲良くなって貰うのが先だよ」

 書類を分けながら、逢坂くんがぽつりと感想を漏らした。
 確かにそれは言えてる。
 今年の夏には、わたしも含め、会長、逢坂くんと3年生組は生徒会から下りるわけだ。
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