平和な日常~夏~2

一方八月も後半に入ったこの日、店には新たなショーケースが搬入されていた。

それは以前から検討していたスイーツ用のショーケースである。

大きさとしては普通の一般的なケーキ屋のショーケースの半分ほどの小型のショーケースだが、入口付近にあるレジの隣に置かれた。

現在の店の主力がスイーツの持ち帰り販売なのは以前から何度も説明しているが、買う際に現物を見たいと考える客は多くショーケースがあればと何度か言われたこともある。

木乃香達とも相談した結果購入したのが今回の小型のショーケースだった。


「なんか最近流行りのカフェっぽいな」

搬入されたショーケースにさっそくケーキやスイーツを並べる横島だったが、その光景は最近よく見る全国チェーンのカフェのような感じだ。

喫茶店らしくないとよく言われる店なだけに、喫茶店らしいショーケースの一角に横島はどこか嬉しそうである。



「横島君、それよりもこっちの話を聞いてほしいんだけど……」

新しいショーケースにまるで新品の自転車を買って貰った子供のように嬉しそうな横島だが、そんな横島とは裏腹に店内の一部の人間の空気は微妙に重い。

その中心にいるのが刀子と千鶴に木乃香達だった。


「対応は学園にお任せしますよ。 その程度の悪戯で騒ぐのもアレですし」

困ったような刀子の言葉に横島は意見を告げるが、深刻そうな彼女達と真逆な横島は楽観的である。

さて刀子達が話し合いをしてる内容だが、それは千鶴の元ストーカーが横島を逆恨みしてる件だった。

実はお盆期間の終盤に彼らのごく一部の人間が、横島を誹謗中傷するビラを横島の近所に夜中にばらまこうとして学園側に捕まったらしい。

そもそも麻帆良祭までは愉快犯的なメンバーも含めて結構な人数がいた千鶴のファンだが、ほとんどのメンバーは今では反省してそれなりに学生生活を楽しんでいる。

ただあの日最後まで残っていたストーカーは、同じ千鶴のファンだった者や天文部の男子や同級生からも責められるなど散々だったようだ。

特に千鶴の周辺にいた常識ある男性達の怒りは凄まじく、普通に千鶴と友人や知人だった者達はあの件の後には彼らと同じではと周りから見られたりしてかなりとばっちりを受けていた。

その結果ストーカー連中は学校でも孤立気味になって横島を逆恨みしたのだが、そんな彼らは教師や風紀委員のみならず同級生や千鶴のファンだった男達にまで要注意人物として監視されていたらしい。

今回彼らの一部の人間がお盆で人が減った隙に嫌がらせをしようと横島を誹謗中傷するビラを作成したらしいが、ビラを撒く前にバレて捕まったのだ。

どうもかなり前から何か企んでいると同級生などから情報が流れ、彼らが行動を起こすまで泳がされていたようである。


「任せるって言われてもね……」

この件で横島への報告を任されたのは、何故か刀子だった。

本来は表の教師と裏の木乃香の護衛が仕事なのだが、近右衛門により今回は横島の担当にされている。

通常麻帆良市内の魔法協会外の裏の関係者の対応は専門の部署があるのだが、横島は木乃香に近く立場が微妙に難しいので魔法協会員で一番親しい刀子に担当が回されたらしい。

まあ近右衛門もこの件で横島が怒ったり魔法協会に不信を抱くとは全く思ってないが、どのみち木乃香や明日菜に近過ぎる横島とは今後も協力を含めた良好な関係が必要だとも考えている。

横島の弱点である女への甘さを見抜いている近右衛門は、今のうちに刀子を横島と協会のパイプ役にしようと考えての行動だったりする。



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