麻帆良祭への道・2

「誰か来たよ!」

そのまま日が暮れた後も準備は急いで進められるが、夜が更けていくと仮設店舗の周辺は人が一気に居なくなる

仮設店舗の周辺は雪広グループのパビリオンがあり、学園側の警備員や大学部の講師などが数時間に一度見回りに来るのだ

2-Aの少女達は誰かが来るたびに裏方に隠れなければならない

そして今も見張りをしていた鳴滝姉妹の言葉に、みんなは慌てて厨房や倉庫に隠れに行く

結局残ったのは横島と超と葉加瀬の三人だけだった

大人の横島はともかく超達は日頃から大学部に泊まり込みなどが多いので、この辺りの警備員とは顔見知りらしい


「また君達か?」

今回見回りに来たのは大学部の講師達だったが、超と葉加瀬の姿を見つけると何故か苦笑いを浮かべている


「徹夜はいつものことネ」

「今日はご迷惑をかけないように静かにしてますよ」

超と葉加瀬は顔見知りらしい男性と親しげに話をするが、男性は困ったような表情をしつつも半分諦めてる感じだ

麻帆良の天才少女である二人には様々な理由から多少便宜を図っているが、正直おおっぴらに規則破りは勘弁して欲しいようである


「止めろと言っても無駄だろうから言わないけど、事故と怪我だけは気をつけてくれよ。 何かあれば責任取らされるのはこっちなんだからな」

見回りに来た講師は乱雑に散らかった資料や作りかけのメニューなどを見て、僅かに厨房の方に視線を送って軽くため息をつく


「今日は危険なことはしてないから大丈夫ヨ。 明石教授」

「へー、教授にしては若いな」

微妙な表情を浮かべていたのは裕奈の父親である明石教授だった

若い教授に横島は少し驚きの声をあげるが、明石は苦笑いを浮かべたままだ


「とっても優秀な人ネ。 ちなみに裕奈の父親ヨ」

「そうなんだ!? そりゃまた偶然なことで」

「娘が世話になってるね。 よろしく頼むよ」

予期せぬ偶然に驚く横島に明石は一言挨拶すると、そのまま見回りに戻っていく

麻帆良祭の準備期間は見回りする場所も多いらしく、ゆっくりしてる時間はないようだった


「みんなが隠れてたのに完全に気付いてたな」

明石教授達が去った後みんなは再び作業に戻るが、横島は明石教授達がみんなが隠れてるのに気付いていながら見逃したのを当然気付いている

実は昨日の夜も何回か見回りが来たのだが、昨日も超と葉加瀬の顔パスで千鶴は指摘されることなく済んでいたのだ

二人は大学部近辺ではかなり有名らしく、見回りの者達も注意はすれど帰れとは言わなかったのである


「麻帆良祭の準備期間は大目にみてくれるネ。 そもそも徹夜禁止を守ってるグループはほとんどいないヨ」

わざと見逃した明石達に苦笑いを浮かべていた横島だったが、麻帆良祭ではよくあることらしい

中等部や高等部の徹夜は基本的に前日以外は認めてないが、いつの間にか見逃すのが暗黙の了解になってるようだった

実は何年か前に徹夜禁止の規則の遵守を徹底したことがあったらしいが、いろいろな場所に隠れて徹夜したりする者が後を絶たずにかえって危険が増しただけだった事から、結局見逃しつつ定期的に見回りする方針に変えたようである

規制しようとすればするほど隠れて作業するのに燃える生徒が出た為にあまり追求しない方針になったらしい

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