横島君のお店開店

それから二日ほどかけて物件を見て歩いた横島だが、この日は木乃香達が住む女子寮から近くの大通りから一本入った場所にある物件に来ていた

そこは明治初期に麻帆良の街が出来た当初に建てられた建物なようで、築百年を越す建物だが管理がよかったようであまり古さは感じない

物件は表通りから一本入った先にある交差点の角地で、一階には店舗の空きスペースと車一台分の車庫がある

物件は三階建ての建物と広めの庭がある割には安くお得物件だった


「ここは一ヶ月ほど前まで老夫婦が洋食レストランを開いていたんです。 明治初期から続いていた名店らしくって随分皆さんに惜しまれたのですが、後継者が続かず閉店しまして……」

不動産屋の親父に説明を受けながら中を見ていく横島だったが、その物件は前の住人の人柄が分かるほど丁寧に使われていた建物である

昔は一階にレストランを営業して二階と三階は学生に部屋を貸してたらしいのだが、二十年ほど前に麻帆良学園が寮を導入していった為に最近は老夫婦が改築して自分達で住んでたらしい

一階の店舗スペースには古いが大切に使われて来たテーブルやイスなどがまるまる残っており、厨房の細々とした道具さえあればいつでも営業出来るようだった


「この物件は地下に広い食品貯蔵庫があるんですよ。 江戸時代の倉と同じように作られたらしくて、年中一定の気温で涼しいんです。 冷蔵庫がない時代には随分重宝したらしいんですけどね」

地上部分に続いて店の厨房から通じる地下室を案内されるが、分厚い扉で遮られたそこは地下の倉そのものである

広さは結構広くて畳みにして50畳は軽くありそうだ

近年は物置件酒蔵として使われていたらしく、スチール製の棚などが数多く並んでいる


「随分いい物件っすけど、なんでこんなに安く借りれるんっすか?」

「全体的に状態はいいんですが、やはり古いのがネックになりまして…… デザイン的にも古いので、本来は全体的にリフォームが必要なんです。 近年は観光客も多く麻帆良の飲食店は競争が激しいのもあり、繁華街から外れた裏通りのこちらはどうしても安くなるんですよね」

建物庭込みで家賃35万の物件だが、部屋数やレストランの大きさを考えると安い物件である


しかし全体的に古いデザインな事や裏通りな場所だったこともあり、かなり安いようだ

本来はリフォームをして賃貸か販売する予定だったらしいが、たまたま横島が似たような金額の物件を探していた為にリフォーム代を安くして紹介したらしい


「気に入ったんでここにします」

顔色を伺うような不動産屋に、横島はここに決めたと即決する

規模の割には安いし、リフォームをするのは自分で出来る横島としてはこの物件が気に入っていた

加えてデザインが古いと不動産屋は気にしているが、横島としては大切に使われていた印象の方が強くてあまり気にならない

結局横島は宝くじの当選金を使って、この物件を借りる契約を交わしてた

そしてこの古びた元レストランが横島の新たな本拠地になる事になる



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