「うーむ、つまらんな」

同じ頃コーヒーショップで雨宿りをしていた横島は、予想以上に客が来なかった事にため息をはいていた

前日は木乃香の他に数人の客が来たが、今日は朝から全く客が来ないまま雨が降り出して終わっていたのだ

まあ食べ物は異空間アジトで自給自足してるし、横島はすでに人間ではないので食べなくてもいいから困らない

それに寝る場所も異空間アジトがあるからいいのだが、せっかくやっているのだからもう少し人が来ないとつまらなかった


（もう二、三日やってダメならやり方変えるか……）

判断するにはまだ早いが、もう少し様子見てダメならやり方を変える必要があると思う

元々横島自身も占い師らしくない姿と勧誘なのは理解してるが、その方が気楽でいいからと考えわざと軽い調子のままにしていたのだ

この地を実質支配している関東魔法協会という裏の魔法組織がある事は事前に調べていたし、本格的にやって当たると評判になって目立つのも避けたいと考えている

何事もほどほどでいいというのが横島の考えだし、何より気楽に女の子とおしゃべりしたりするのが楽しみで始めた部分もあった

下手に真面目にやって気楽に女の子と話が出来なくなるのは嫌なのだ

占いが当たっても外れても笑って済ませる事が出来る値段とやり方が理想らしい


「そういやあ、ゆっくり雨を見るなんて久しぶりだな……」

コーヒーショップから何をする訳でもなく雨が降る街を眺めていると、この街がいかに平和なのかシミジミ実感していた

かつては横島も当たり前だと思っていた平和が此処には存在する

突然の雨に雨宿りする学生や濡れるのを覚悟で走る学生などの様々な表情を見ていると、ふと昔を思い出してしまう


《雨は嫌いなのよ》

そんな口癖と共に雨が降るたびに仕事をやらない、かつての上司も今は懐かしく感じる

横島自身は雨に好き嫌いもなかったが、平和な街にシトシトと降るこの雨は嫌いではない

コーヒーが冷めるのも忘れた横島は、しばらくその雨を見つめて続けていた



次の日は前日の雨が嘘のような晴れた一日だった

三月も中頃に入り木々には新芽が増えて気持ちのいい小春日和の午後、相変わらず客が来ないで暇そうな横島の元に木乃香と明日菜が訪れ来る


「お兄さん、こんにちは～」

「いらっしゃい。　また来てくれたのか？」

「お兄さんの占い当たったから、友達連れて来たんよ」

ニコニコとしながらも興味津々に見つてくる木乃香に、横島はやはり縁がある相手なのだと確信する


（この子……）

しかし次の瞬間木乃香が連れて来た明日菜を見た横島は、何か言葉に出来ない違和感を感じてしまう


「恋愛運を占って欲しいんですけど……」

「君も可愛いな～　占いなんかに頼らんでも十分モテるだろうに」

何か魂が騒ぐような違和感を感じた横島だがそれ以上は危機感も感じないために、ちょっと複雑そうな明日菜の表情に気のせいかと思い言葉をかける

一方明日菜は予想以上に軽い調子で間違っても占い師に見えない横島に、期待外れな感じが否めなかった

木乃香が占いに熱を上げてるのはいつもの事なのだし、今回も大袈裟だったのだろうと半ば諦めてダメ元でやってみる事にしたらしい