さて一夜限りの麻帆良亭復活で賑わう横島の店だが、本当に老若男女入り混じった客達で混雑していた。

特に店外には十五人から二十人ほどの行列が先程から常に並んでいるが、中高生などの学生達と社会的な地位のありそうなな年配者が同じ行列に並ぶ姿はなかなか見られるものではない。


「凄い人だな」

「あれ先生達も来たんですか？」

「うわ、新田先生……」

冬の夜に街灯と店の明かりやクルマのヘッドライトの光に照らされながら行列に並ぶことには少し躊躇う者が多い。

ただ一夜限りだと聞くとまた今度という訳にもいかずに並ぶが、行列には高畑達中等部男性教師を連れた学年主任の新田の姿もあった。

噂を聞き付けて新田が若い教師達を連れて来たようだが、流石に行列が出来てるとは思いもしなく驚いている。


「二百人前で足らない気がするです」

「そういえば閉店時間を決めて無かったわね」

そして店内のフロアでは坂本夫妻の妻と夕映・明日菜・さよ・ハルナ・タマモが働いており、夏美と千鶴は先程から厨房の雑用に入っていた。

客の回転率はさほど早くないのでフロアは多少余裕があるが、早くも問題が起き始めていて夕映達が余裕を持って想定した二百人前で足りなくなる可能性が早くも浮上している。

まあこの問題のそもそもの原因は、始まる時間も終わる時間も決めて無かったことにあった。

来客のスピードが夕映の予想以上に早く急遽夕映は坂本夫妻の妻とこのあとどうするか話を始めるが、妻は冬の寒い夜にわざわざ来てくれた客をがっかりさせたくないらしく悩んでいる。

客の半分以上は懐かしい顔ぶれであり、みんな妻の顔を見ただけで喜び笑顔を見せてくれた。

正直突然の思い付きの復活なだけに、これほど昔の常連が集まってくれるとは思わなかったのだろう。


「追加で仕入れをするしかないですね」

「それが出来ればいいけど、私達も厨房からも抜けれないわ」

「私にアテがあるので大丈夫です。　任せて下さい」

結局追加で仕入れをすることに決めるが、現状では坂本夫妻は元より横島や夕映達も店から抜けれる状況では無かった。

現在の時間的にすでに商店街のような個人の店は閉まっているし仕入れるにしてもスーパーしかないが、食品の品質をある程度見極めが出来て今すぐに仕入れに行ける人物など妻は思い当たらないらしい。

ただ夕映は頼む人にアテがあるらしく任せて下さいと告げると、厨房の夫と打ち合わせして自信ありげな表情で何処かに電話をしていた。


「相変わらずお祭り騒ぎが好きな人達ネ」

そしてそれから一時間ほど過ぎた頃、大量の食材を抱えた超と五月と古菲の三人が店を訪れる。

超達はフロアに居た夕映達に仕入れた食材を渡すと興味津々な様子で店内を見渡す。


「おお、超君じゃないか。　君も噂を聞き付けて来たのかね？」

「私はお使いをして来ただけヨ。　教授こそ論文で時間が無かったはずでは？」

「麻帆良亭には学生時代に世話になったんだよ。　この味をお腹いっぱい食べる為に私は頑張ったんだ」

食材を受けとった妻と夕映達は突然頼んで申し訳ないと謝りつつ超達にお礼を言うが、超は店内に顔見知りの大学教授を見つけたらしく親しげに話を始めていた。

先程並んでいた新田や高畑達もすでに店内で食事をしているし、意外と大学関係者も多いらしく超はあちこちの人と挨拶を交わしていく。