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平和な日常~春~

「人生の先が見えてる老人の気持ちは、エヴァには分からんのかもしれんのう。 少しずつ終わりへ向けた準備が必要なのじゃよ」

エヴァの問い掛けに近右衛門は、僅かに羨ましそうな笑みを浮かべる

年々死を身近に感じる年になる近右衛門は、自分が居なくなった後を心配している

それと同時に時の呪縛に捕われないエヴァが少し羨ましかったようだ



「肉まん作ってみたんっすけど、よかったらどうぞ」

二人の会話が途切れ再び微妙な沈黙が辺りを支配する中、絶妙なタイミングで空気を壊す横島が日本茶と肉まんを持って来る

一瞬話を聞いていたのかと勘繰る近右衛門だったが、聞かれてマズイ会話はしてないしエヴァと近右衛門に気付かれずに聞き耳を立てるなどありえない事だった


「メニューにない物をよく作るのう」

「いや~、なんか急に作りたくなったんっすよね」

肉まんを一口食べて横島を見る近右衛門は思わず感心したように呟くが、横島はあくまで気分で作ってるだけである


「超包子の肉まんか?」

「おっ、よく分かったな~ あそこの肉まん美味いから真似して作ってみたんだわ」

近右衛門に続き無言のエヴァも肉まんを食べるが、エヴァは食べた瞬間に横島が作ったのが超包子の肉まんと同じ味だと気付いていた

どうやら横島は何度となく食べた肉まんを食べただけでコピーしたらしく、味覚も普通じゃないようだ


「人様の味だし流石に売り物には出来ないけど、いい勉強になったわ」

横島の前では肉まんを食べながら碁を打つ老人と少女というシュールな光景になっていたが、幸いなことに店内に他に客は居なく誰も気付かない



「立場上、表立って協力は出来んが準備は進めてくれ。 まあわしも麻帆良をどこぞの馬鹿に渡すつもりはないが、一応準備は必要じゃろう」

横島が離れた後で近右衛門は先程の話の続きをするが、その表情は真剣そのものだった

現状では麻帆良が第三者によって利用される可能性は高くはないが、近右衛門はその状況に楽観するほどお人よしではない


(エヴァと明日菜ちゃんの将来くらいは、手を打っておかねばならんのう)

いつになく真剣な近右衛門にエヴァは半信半疑だが、近右衛門はすでにその先を考えている

決して急ぐつもりはないが、早めにエヴァと明日菜の将来にプラスになる状況は何とか作りたいと考えていた


「貴様に言われんでも考えてるわ」

近右衛門の思惑を推測するエヴァだったが、結局は自分にあまり関係ない部分での変化なのだろうと考えてそれ以上の追求をやめることにする

現実問題としてエヴァは、自分の存在が近右衛門の重荷なのを理解していた

魔力を封じられ麻帆良を離れられない今のうちにエヴァを殺せと、メガロメセンブリアの本国から何度となく圧力があったのも理解しているのだ


(確かにそろそろ潮時なのかもしれないな)

ナギへの想いや平和に暮らしてる麻帆良への想いなどいろいろ複雑なエヴァだったが、自分の存在が常に疎まれてるのは嫌というほど知っている

近右衛門が自分が亡くなった後を心配するのは、ある意味自然なことだった

結局エヴァは明確な答えを口にしなかったが、己の未来に向けて少し考えを進めることになる


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