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平和な日常~春~

僅かにミュージックの音が流れる店内では碁盤に碁石を置く音だけが静かに響く

しばらくの間ぶつぶつと文句を付けていたエヴァも、対戦が進むと無言になり時が過ぎている


「例の呪いは解けそうか?」

「嫌みか? 魔力も満足に使えないでどうやって解呪の研究をするんだ?」

店内の他の客が居なくなり、横島が厨房に入った隙に近右衛門はエヴァに呪いの件の確認をしていた

エヴァは何か疑われてるのかと思い無理だと告げるが、実際は呪いを解く研究自体してないのが現状だった


「魔法球ならば呪いは無効になるのじゃろう? 出来れば研究くらいはして欲しいんじゃが……」

小声でぼそぼそと話す近右衛門はあえて認識疎外の魔法を使ってない

裏の人間である可能性が高い横島の店で認識疎外の魔法を使えば、逆に横島に感づかれると考えたのだ


「貴様、何を企んでいる?」

「何も企んでなどないわい。 ただ、いざという時の備えは必要じゃろう? いつまで待ってもナギはもう帰ってなど来ないぞ」

自分が何か疑われてるのかと警戒心を強めるエヴァに、近右衛門は淡々としながらもきつい言葉を投げかける

エヴァがいつまでも呪いを解くそぶりを見せない理由は、ナギへの想いが原因なのだ

呪いを解きに来ると約束したナギが来ることを、エヴァが諦めと同時に待っていたのも事実である

近右衛門はそれを理解してエヴァが動くのをずっと待っていたのだ

しかしそろそろ時間的に限界だった


「貴様、死にたいのか?」

「この先十年も二十年もわしが現役などありえないのじゃぞ? わしの不用意な発言でナギが呪いをかけてエヴァを苦しめる原因になったことは謝る。 だがわしが引退した後で問題になるのは避けたいのじゃ」

自分の一番デリケートな問題を突然に突かれたエヴァは殺気をむき出しにするが、近右衛門は冷静に将来を見てエヴァに自由になる準備を始めるように告げる

エヴァが麻帆良に括られたままでは、将来的に麻帆良にもエヴァにもいい未来などない

近右衛門の後を誰が継ぎどうするのかは不明だが、エヴァをメガロメセンブリアから守るには少々力量不足の者ばかりである

寿命のないエヴァは時の感覚に疎いためあまり気にしてなかったが、ナギの力任せな呪いを研究し解呪するのは簡単ではないのだ

年単位で時間がかかるだろうし、下手をすれば十年を越える可能性もある

魔法球を使う方法もあるが、それでもなお外の世界で2~3年はかかるだろうと近右衛門は考えていたのだ


「何かあったのか? 弱気になるなどらしくないじゃないか」

ナギの事で苛立ちを隠せなかったエヴァだが、近右衛門がいつになく弱気な発言をする為に毒気を抜かれてしまう

今まで近右衛門は無用な権力争いなどが起きるのを避けるために、引退など口にした事がないのだ

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