「余計なお世話かもしれんが、油断はダメあかんぞ。　世の中は何が起こるかなんで誰にも分からないんだからさ」

「それは経験談カナ？」

「まあな～、俺は馬鹿だから何度も失敗したんだよ」

超が夕食にと頼んだメニューを出した横島は、僅かに苦笑いを浮かべて気をつけるように告げる


（何をしたいのかは知らんが、少し気になる子なんだよな）

訳アリなのはすでに分かっているし魔法協会も超を警戒してるのはすでに知っているが、横島は超には何か表に見えない危うさを感じてしまう


「ありがとうネ。　せっかく心配してくれる人の言葉は有り難く聞いておくヨ」

横島の言葉に超は普段と変わらぬ笑顔で素直に気をつけると返事を返すが、やはり危うさは消えないままである


（私に次ぐイレギュラー横島忠夫。　貴方の存在が現れたのは私が原因なのカ？　木乃香サンがバイトをしたなんて歴史は知らないネ。　何か気になる人ヨ）

そんな笑顔の超だったが、彼女の視線は横島を捕らえたままだった

自身の知る歴史にない人間が現れた事で、最近の彼女の興味は横島に向いている

そんな超が横島を気にしだしたのは、木乃香がバイトを始めた頃だった

近衛木乃香に中学時代のバイト歴などなかったはずなのだ

無論超も歴史の全てを知っている訳ではないし歴史に残らぬ細かな部分は知らない事も多いが、木乃香のバイト歴だけは確かになかったのである


（何者かは知らないが、歴史に名を残さぬ程度の人間が居ても何も変わらないはず……）

関東魔法協会が横島を調べた結果を超はハッキングして知っていた

裏の人間かもしれない横島だが、超は正直現在の横島を脅威だとは全く思ってない

歴史の闇に埋もれる程度の人間の一人や二人が現れる事は元々想定の範囲内なのだ

自身の存在により歴史は彼女の知る歴史と少しずつズレているのだから……


（しかし彼は２ーＡのクラスメートと近すぎるネ。　この変化が何を生むのか……）

横島自身は全くの脅威ではないが、超が気にしてるのは横島が親しい木乃香達に与える間接的な影響である

木乃香や明日菜や夕映やのどかなど横島が親しいのは、約一年後に来るあの人物と深く関わるはずの人達ばかりなのだから


この時、超鈴音は気付けなかった

時間と世界の流れは彼女が考えてる以上に複雑で繊細だと言うことに……

そして横島忠夫という存在が、超鈴音の存在など霞むほどのイレギュラーだという事実にも気付けぬままだった



「何を考えてるかは知らんが、たいしたタマだな。　まあ俺には関係ないけど……」

その後閉店した店内を掃除していく横島はふと超の意味ありげな笑顔が気になるが、自分に無関係な問題に進んで首を突っ込むほど面倒事が好きではない

まあ好きなようにやってくれとしか、感じてなかった