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平和な日常~秋~3

その後伸二は店の仕事と平行しながら料理を教わるが、それはやはり驚きの連続であった。

何より衝撃だったのは、木乃香の専門がスイーツではなかったことだろう。

対外的にはパティシエ界の新たな期待の星として、新堂のクイーンとの愛称から木乃香はお姫様との愛称が噂されているが、実はスイーツが専門でも無ければパティシエを目指してる訳でもないと聞けば驚かないはずがない。


「ウチは店に出せるレパートリーは少ないんよ」

驚き唖然とする伸二を前に木乃香は自身が店に出せる料理のレパートリーは少ないと語るが、出せる料理の質が桁違いな事実に本人が気付いてないことも驚きの原因である。


「覚えること多いんで大変でしょうけど、一つずつ覚えればいいっすから」

そして肝心の料理は伸二が考えていた以上に細かなポイントや手間が多く、それを全て覚えて習得する大変さを感じ始めていた。

元々さほど細かいことを気にしない性格だった伸二は、ファミレス時代を含めてもそこまで細かく考えて料理などした経験がない。


「そういえば仕入れはどうしてました?」

「えっ、ああ仕入れは前の日の夜にスーパーから買ってました。 開店が早いので朝は店が開いてなくて……」

一方の横島は伸二が思っていた以上に料理に素人だということに密かに頭を悩ませていた。

元々母親から料理を教わり基礎知識や技術があった木乃香と違い、彼はファミレスの決められたマニュアル通り作ることしか知らないのである。

包丁の使い方は割と出来ているが魚関係は経験がなく、味付けや火加減なんかはダメであった。

加えて日頃どうしているのかと仕入れや食材の保存方法などを尋ねるが、本人は素人に毛の生えた程度しか知らない。


(食材の簡単な選び方から教えんとダメか?)

正直よく母親が店を任せたものだと横島は不思議に思う中で、教えることの多さにどこまで教えるべきかと悩んでいる。

ちなみに定食屋の客層は成人が七割に女子高生が三割程度で、男女比率は六対四で男性が多いが女子高が多い地区だけに女子高生の客も結構来るらしい。

元々は母親のいわゆるお袋の味を売りにした定食屋だった訳で、伸二に変わってから人が減ったのは仕方ないのだろう。

夕映が飲み物なんかを教えているのは、女子高生相手にそれなりに需要があると見込んでいるからである。



その夜の夕食はいつものメンバーに美砂達と宮脇兄妹が一緒になるが、まだ店が営業中にも関わらず店内のフロアで身内で賑やかに夕食を食べる横島にこれまた驚きを隠せない。

ただ夕方以降は客も少ないし、時々来る客も誰一人驚いてないが。

中には横島の店で夕食を目当てに来るサラリーマンなんかも多少おり、メニューにはないが横島達と同じ夕食を頼む人もいたりする。


「へ~、定食屋の再建ね」

そんなこの日の夕食時の話題は、やはり宮脇兄妹の存在と店の再建であった。

店の再建の話に美砂は根拠なく横島なら楽勝だと笑っているが、横島とすれば少し困ったように笑うしか出来なかった。



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