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平和な日常~秋~3

皮をむき終わった柿は紐で括ると屋上の物干し竿に吊されていた。

本来は軒下などの雨が当たらず風通しと日当たりがいい場所に吊すのだが、あいにく洋風建築の横島宅には軒下そのものがない。

夜や雨が降りそうな日はシャッターを開けた車庫の中に吊す予定にしており、少し手間がかかるがそこは仕方ないだろう。

その日からしばらくの間、干し柿が吊された下に外車であるコブラがあるという奇妙な光景が見られることになる。



そして次の日の日曜だが、横島は店を木乃香達に任せて夕映を連れて高等部の学校がある地区に来ていた。

秋風が冷たい中を走ったコブラが止まったのは、どこにでもありそうな普通の定食屋だった。

外観は普通の日本式の建物で築四~五十年と結構古く、第二次大戦後に建てた建物だろう。


「ここだな。 来たことあるか?」

「ないですよ。 ここは女子中等部のある地区から少し離れてますし、この辺りに来たことすら数えるほどしかないです」

哀愁漂う看板を見た横島は少し微妙な表情をするが、それはお世辞にも客が入ってるように見えないからである。

隣の夕映も同じく複雑そうな表情だが、二人はもちろん食事に来た訳ではない。

事の始まりは前日の夜に一人の常連の女子高生が連れて来た、同じ女子高生の子の頼みから始まる。


「こんちわ~、横島ですけど」

車を降りた横島はのれんが仕舞われている定食屋に入るが、営業してないので当然客など居るはずがなく店内は静けさに包まれていた。

まるで配達の兄ちゃんのような口調で店内に入ると、そこには二十代後半の男性と前日店を訪れた女子高生二人が横島と夕映を出迎える。


「マスターごめんね、無理なお願いして。 夕映ちゃんも休みの日にありがとうね」

常連の女子高生は横島の姿を見ると申し訳なさそうに謝るが、実は横島が頼まれたのはこの定食屋の再建だった。

そもそも常連の紹介で昨日店にやって来た依頼人の女子高生と二十代後半の男性は兄妹であり、この店は兄妹の母親が今年の夏まで店を営業していたらしい。

しかし母親は急病で夏に入院してしまい、兄妹はどうにか母親が退院するまで店を守りたいと頑張ったがお客は減る一方で困り果てていたようだ。

妹は常連の友人から横島の腕前や噂を聞き、どうにか再建の手助けをしてくれないかと頼みに来たのが昨日だった。


「役に立てるかはわからんぞ」

昨日この話を聞いた横島は正直判断に困ってしまい、二つ返事で引き受けている。

横島の場合は木乃香達が開店前からかなり協力してくれたので順調なのだが、当然一度減った客を取り戻すのは簡単ではない。


「わかってます、どうかよろしくお願いします」

少し困った表情の横島に兄妹は深々と頭を下げてお願いすると、さっそく日頃店で出してる料理を試食して欲しいと調理に取り掛かる。


「幾つか質問があるのですが、まずは夏までの客層と売れ筋のメニューはなんですか?」

兄が厨房に行くと店内には横島と夕映と女子高生二人の四人になるが、夕映は店内を見渡しつつ依頼人である妹に質問を始めた。

どうも横島は料理以外の細かい問題点の洗い出しの為に、夕映を連れて来たらしい。

夕映や木乃香達の女の子の視点からの努力が横島の店に与えた影響は本当に大きいのだ。

結局夕映は料理が来るまで依頼人を質問攻めにしたのは言うまでもない。


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