平和な日常~秋~3

楽しげなタマモの声が途絶えたのは午前三時を過ぎた頃である。

一時間ほど前から睡魔に襲われていたタマモはとうとう眠ってしまう。

今までにも何回か図書館探検に参加したタマモは毎回朝まで起きてることを目標にしていたが、幼いタマモが朝まで起きてるのは簡単ではない。

ましてずっとテンション高く横島と遊んでいたので、どうしても疲れて眠くなってしまうようであった。

横島はタマモが狐形態に戻らぬように変化の術を改めて掛けてやり、風邪を引かぬように持参した毛布をかけてやるがタマモは満足そうな表情で静かに寝息をたてている。


「タマちゃんやっぱり寝ちゃったんや~」

この時ちょうど三時の休憩に入った木乃香達は、幸せそうに眠るタマモに思わず笑みをこぼす。

来る前は今日こそ自分で歩いて帰ると張り切っていたのだから、明日の朝のタマモを想像するとつい笑ってしまうらしい。


「まさか俺が子育てするなんてな~」

「普通なかなか出来ることではありませんよ」

休憩にと暖かい飲み物を入れて飲む一同だったが、横島はいつの間にか子育てしている自分に少し複雑な心境になる。

夕映はそんな横島になかなか出来ることではないと褒めるが、横島は素直に喜べるほどよくやってるとは自分では思えなかった。


「みんなに随分助けられてるからな」

タマモを育てているのは、実質的にはハニワ兵やさよと木乃香達などの横島の身近な少女達である。

無論横島も手を抜いてる訳ではないが、横島一人で育てられるかといえば正直疑問が残るのだ。


「そういえば親御さんは?」

もう少ししっかりしなきゃダメかなと考える横島だったが、そんな時ハルナが今まで木乃香達が聞きたくても聞けなかったことを尋ねてしまった。


「居ないんだよ。 俺が親代わりになるつもりだしな」

その瞬間木乃香達はなんとも言えない表情をするが、横島は両親は居なく自分が育てるつもりだと言い切る。

横島の答えにハルナも流石に少し申し訳なさそうな表情をするが、木乃香達はある程度答えを予測していたらしく落ち着いているようだ。


「でも、シングルファーザーって大変でしょ。 やっぱりお母さんも必要よ。 あんた達もそう思うでしょう?」

少ししんみりとした空気になるが、それをぶち壊したのはやはりハルナだった。

一瞬ニヤリと何かを企むような笑みを浮かべるとタマモには母親が必要だと語り始める。

しかも木乃香達三人に同意を求めるのだから、何を言いたいのか夕映はすぐに理解した。


「母親か? しかしタマモが懐いて母親になってほしいって相手じゃなきゃダメだし俺には無理だわ」

「ここ……………」

「いい加減にするです!」

一方横島はハルナがまた何か企んでることには気付いたが、そもそもタマモに母親を用意してやる気がないので適当に言い訳を口にしてしまう。

ハルナはそんな横島に待ってましたと言わんばかりに何かを言おうとするが、夕映に口を抑えられて有無を言わさぬままに口を封じてしまった。


「どうしたんだ?」

「さあ?」

何故か顔を真っ赤にしてハルナの口を封じる夕映を、横島・木乃香・のどかの三人は物珍しそうに見つめる。

基本的に恋愛に疎い三人はハルナの言いたかったことは理解出来なかったらしい。



1/63ページ
スキ