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番外編・ネギまIN横島~R~(仮)

《運命に逆らえなかった者》


あれは七月の上旬のことだった。

麻帆良祭が無事に終わり教師として働く俺がようやく一息ついた頃、同じ教師であり魔法協会にも所属する噂好きの同僚がニヤニヤと意味ありげな笑顔で仕事終わりに飲みに誘って来る。

俺はまたつまらない噂話でも仕入れたのかと呆れつつも、少し暇だったこともあり付き合うと同僚の口からはあまり聞きたくない噂を聞かされてしまう。


「お前の別れた奥さんに新しい男が出来たみたいだぞ」

彼は魔法関係者の中で情報屋を気取っていて、有ること無いこと噂を拾って来ては親しい同僚や友人に噂をばらまくスピーカーのような男だ。

根は善人なので激しく嫌われるタイプではないが、付き合い方を間違えると嫌な友人にもなる。

この日は俺の別れた女房である刀子の新しい噂だったらしい。


「そりゃ若いんだから男の一人や二人は出来るだろうよ」

「ところが相手年下でな。 二十歳くらいのはぐれ魔法使いらしい。 しかも女癖があまり良くないみたいで、中学生の子にも手を出してるみたいだぞ」

別れた女房は性格はともかく見た目は美人なので当然モテるだろうと思うが、相手の男の噂には正直驚きを隠せなかった。

あの刀子が女癖の悪い年下の男となど付き合う訳がない。

ナンパ男は彼女の一番嫌いなタイプであるし、それは彼女の学生時代を知る俺が一番よく理解している。


そもそも俺と刀子が結婚したのは学生時代だった。

彼女は神鳴流から木乃香お嬢様の警護の為に派遣されて来たのだが、まだ若かったこともあり大学に通いながら木乃香お嬢様の警護をしていた。

そんな俺と刀子が知り合ったのは魔法協会の仕事でだった。

同じ教育学部の魔法関係者ということで俺と彼女はよく魔法協会の仕事で会う機会があったのだが、俺は残念ながら彼女ほど魔法に長けてる訳でもなく戦闘力がある訳でもない。

せいぜい援護をするだけで精一杯だったが、俺と刀子はなんとなく気が合った。

今思えば彼女の十代は修行漬けの日々で、男性との恋愛経験が無かったのだろう。

俺も強くて美しい彼女に惚れてしまい、俺達は近衛学園長の許可を得て学生結婚をした。


ただ俺と刀子の結婚は俺達が思っていた以上に障害が多く厄介だった。

近衛学園長に結婚をしたいと頼んだ時に学園長は刀子の実家が関西呪術協会に仕えていた家系であることを説明して、結婚すれば東西の狭間で苦しむかもしれないと俺達に教えてくれた。

しかし若かった俺達はそれがどれほど大変か理解して無かった。

だが実際に刀子の実家に行くと両親はともかく親戚縁者には俺にまるで敵でも見るかのような視線を向けて来る者も居たし、俺の実家に行くと今度は刀子を時代錯誤の田舎者扱いする親戚縁者がいた。

それに麻帆良での俺達に対しての周りの風当たりも決して優しくは無かった。

関東魔法協会では俺の親戚のように関西の者を時代錯誤の田舎者と影で馬鹿にする者も居るし、近衛学園長直属の部下だった刀子はその実力から嫉まれもした。

結局俺と刀子の結婚は僅かな期間で終わってしまう。

まだ学生だった時はよかったが、互いに教師として就職すると忙しさからすれ違い始めてしまい二人の関係は急速に距離が空いてしまったのだ。

正直俺も刀子も東西のしがらみや過去に疲れてしまったのが根本的な原因だと思う。

俺達は一度だけ魔法協会や互いの家族から離れて二人だけで生きて行こうかと話し合ったこともあったが、俺も刀子も魔法協会はともかく両親は捨てられなかった。

加えて俺達の両親の方が俺達より肩身の狭い思いをしたことを知ったことが、離婚を避けられない決定的な出来事だった。

最後に俺と刀子と双方の両親の六人だけで会った時には、驚くほど穏やかで有意義な時間を過ごせている。

離婚の話をする席であれほど両家が穏やかに話し合いを出来たことは、珍しいのではないかと思う。


「同じ日本人なのにね」

「二人で魔法協会を離れてもいいのよ」

最後に離婚を話し合う席で俺の両親と刀子の両親は俺達の環境の厳しさを歎き、最後まで二人でやり直してもいいと口を揃えるがやはり俺達は別れを選んでいた。

決して憎しみ別れる訳ではないが、憎しみ合う前に別れようというのが二人で考えた結論だ。

離婚後近衛学園長と義理の息子である関西の長の計らいで俺と刀子の実家は名誉を回復してようやく落ち着いたが、俺は魔法協会の仕事から事実上手を引いている。

所属こそ抜けはしなかったが、正直魔法協会に幻滅したと言っていいだろう。

近衛学園長は離婚報告をした際に俺達に頭を下げて謝ってくれたが、俺も刀子も近衛学園長を恨む気は無かった。

娘夫婦が関西呪術協会を継いだ近衛学園長の苦労を俺達は身を持って体験したのでとても恨む気になれなかったのだが、近衛学園長があの時に俺達にだけ語った東西はいずれ統合させたいという夢は今だに果たされてない。


「相手が誰だろうと彼女が自分で選んで幸せになってくれるならいいけど」

同僚は刀子の新しい恋人だという男性の写真を見せてくれたが、俺には噂ほど悪い人間には見えないなとしか感じ無かった。

どこか幼さの残る男性が、東西の狭間で傷ついた彼女を癒してくれるならそれでいい。

俺には離れた場所から幸せになってほしいと願うしか出来ないが。



ただこの話からしばらくして刀子と男性は恋人には至らない友人だと判明するが、刀子が男性の営む喫茶店に足しげく通ってると聞きその恋が実ることを祈ることになる。

そして女癖が悪いと噂のあった男性を偶然街で見かけた俺は、男性と一緒に居た中学生の少女達の無邪気な笑顔を見て正直ホッとした。

あれは女癖が悪い人では絶対にないと少女達の笑顔に確信出来たからだろう。

きっと刀子もあの少女達のように幸せなのだと思うと、俺は肩の荷が一つ降りた気がした。



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