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平和な日常~夏~2

その日女子中等部の学園長室では、碁石を打つ音だけが静かな部屋に響いていた。

窓の外からは部活をしてる少女達の声が聞こえてくるが、室内はほとんど会話もなく別世界のように静かである。


「研究は進んどるか?」

ようやくまともな会話が始まったのは、囲碁を打ち始めてからすでに二時間ほど時間が経過した頃だった。

近右衛門は相変わらず無表情で囲碁を打つエヴァに現在の状況を尋ねる。

エヴァに呪いの研究をするように勧めてからまだ二ヶ月近くしか過ぎてないが、魔法球などで時間を引き延ばして研究してれば年単位の時間はあったはずであった。

近右衛門としては特別急かすつもりはないが、研究の進展具合は気になるらしい。


「まともに考えて解くのは無理だな。 術式もクソもない。 ただ力任せにかけた呪いだからな」

せっかく囲碁に集中していたのに余計な話を持ち出されたエヴァは多少不機嫌そうな表情を見せるが、渋々現在の状況を語り出す。

当初エヴァは普通の解呪も検討したが、やはりまともな解呪方法が通用する物ではなかった。

実は呪いを解く鍵となるべきモノの一つは見つけてはいたが、それはナギの魔力だったというすでに無意味な鍵だったのだ。


「あやつにも困ったもんじゃのう」

「問題はまだある。 そもそも誰が呪いを解くのだ? やはり根本的な問題として解呪するにはそれ相応の魔力が必要だ」

死してなお頭の痛い問題を残したナギに近右衛門は改めてため息をつくが、エヴァは他にも解呪に関する問題があると一つ一つ告げていく。

まともな解呪が出来ない強力な呪いを解くには、前提条件にナギに匹敵するような魔力が必要である。

無論技術的な問題なんかはまだ考える前の段階だが、現状で麻帆良に括られて魔力が使えないエヴァでは自力で解呪するのは不可能なのだ。


「それに関しては幾つか考えてあるが、どのみち一人では無理じゃろ?」

エヴァの呪いを誰が解くのか、これに関して近右衛門は本当なら半年に一度の停電の日を利用して一時的に麻帆良の結界を止めてエヴァ自身に解呪させる方向で考えていた。

しかしネギの問題の余波で警備体制の強化が必要であり、スパイに狙われやすそうな停電の日の活用は難しくなっている。

そして現在近右衛門が考えているのが、関東と関西の選りすぐりの魔法関係者を数人集めて人数をかけて解呪する方向だった。


「正気か? どこに私を自由にするために協力する馬鹿が居るんだんだ?」

「西も東も幹部クラスは対メガロ用にエヴァの力に期待する声は大きい。 もちろん前線で戦えなどと考えてる訳ではなく抑止力としてな」

人海戦術で呪いを解く可能性を語る近右衛門にエヴァは素直に驚くが、それ以上に幹部クラスの魔法関係者の打算を含めた期待には複雑そうな表情を見せる。

はっきり言えばエヴァにとっては迷惑でしかないことだが、自由になる代償が必要かと考えると仕方ないことも理解していた。

そもそも簡単に考えるならばエヴァは殺した方が早いのだ。

極秘のこととはいえエヴァの解呪への協力は発覚すればメガロを刺激する可能性が高く、近右衛門や魔法協会にとって危険な行動なのは確かなのである。


「まあわし個人が解呪できる方法があるなら、わしが解呪してもいい。 どちらにしろ解呪に関する根回しはある程度終わっておる。 少なくとも婿殿が生きてる間は力になってくれるはずじゃ」

複雑な表情のまま返事をしないエヴァに、近右衛門はあくまで可能性の一つだと語る。

結局エヴァはこの日は明言を避けるが、第三者が解呪する方向でも研究を進めることになる。



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