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平和な日常~夏~2

「流石は雪広グループだな。 まさか喫茶店で本格的なフランス料理を食べれるとは思わなかった」

最後のデザートも終わると、客達は程よい満腹感とアルコールの酔いに満足げな表情で会話を楽しんでいた。

接待相手はそれなりの立場の人間らしく、それなりに接待される経験があるのだろう。

全体的なインパクトといい、味といい文句の付けようがなかったらしい。


「失礼します」

そんな彼らの元に接待相手から呼ばれた横島が現れるが、当然シェフらしい服装を着ている。

流石に接待の席にウエイターのような服装で現れるほど世間知らずではない。


「……君がシェフか?」

珍しく真剣な表情の横島に雪広グループ関係者も少々驚くが、接待相手はもっと驚いていた。

大学生か高校生に見えても不思議ではないような幼さが横島には残っている。

料理や店の様子など今日はいろいろギャップがあったが、横島と先程の料理が一番ギャップがありイメージ的に全く結び付かないらしい。

若くても三十代か下手すると六十代か七十代のシェフを予想していた接待された者達は、驚きのあまり言葉が続かないようだ。


「はい、本日の料理はすべて私が作りました」

接待相手の問い掛けにさりげなく自信を見せつつ答える横島だが、その雰囲気は普段とは別人のようである。

それは美神令子のような他者を寄せつけぬオーラに、魔鈴めぐみのような柔らかさが入り混じった感じか。

無論それは演技であり、接待だという雪広グループ側へのちょっとしたサービスだった。

横島自身は仲間から受け継いだ技術の料理にはそれなりに自信はあるが、横島の態度一つでその評価が変わるのも理解している。

かつて令子は横島にGSはハッタリが必要だなどと言ったが、それな何もGSに限ったことではない。

引くべき時には引くが出るべき時には出るのが、ある意味令子の強さの一部であり横島もそれをもちろん受け継いでいる。

要はこれも仕事の一つだろうと横島は考えていた。


「本当に若いな。 まだ二十代前半だろう?」

「はい。 料理は知人に習ったのと自己流なので、本格的なレストランでの修行経験はありません。 お口に合いましたでしょうか?」

言葉としては謙遜はするが、態度というか雰囲気には自信が見えている。

ただこの辺りの態度は難しく嫌味にならない程度のさじ加減が必要だった。

正直横島は自身の魂にある彼女達の戦闘以外の経験やスキルをあまり使ったことはないが、今の横島の対応は明らかに横島以外の彼女達の経験とスキルである。

ただ雪広グループの人間も実は横島がここまで普通というか、まともに対応してくれるとは思ってなかったりする。

いつもと同じく妙に腰が低くまるで学生のようなノリで来るかと思ったので、驚いていると言えば彼らも一緒だった。


「ああ、料理は素晴らしかったよ。 正直何故喫茶店なのか疑問だったんだが……」

「喫茶店が好きなんですよ。 今度よかったら夕方にでもお越し頂ければ、御理解して頂けると思います」

話は最後まで横島のペースで終わる。

何故喫茶店なのかという彼らの疑問に横島は、あえて深くは語らないままその場を後にした。

結局この日の接待は成功して後日新しい取引が開始されることになるが、料理人横島の知名度は地味に広がっていくことになる。



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