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平和な日常~夏~2

そんないつも通りの賑やかな時間も夕方を過ぎると徐々に静かになっていく。

夏の夕暮れは遅く夏休みなので結構遅い時間にも女子中高生達がぽつぽつと訪れるが、横島は相変わらず夕方過ぎた辺りから酒を飲んでいる。

タマモとさよは午後に一度昼寝に二階に行ったりしたが、夕食を一階の店で食べるとそのまま二人は一階でくつろいでいた。



「いらっしゃい」

外はすっかり暗くなりそろそろ店を閉めようかと考え始めた頃、ふらりと店にやって来たのは近右衛門だった。

いつもと同じように挨拶する横島の声に、近右衛門もまたいつもと同じように店内に足を踏み入れるが……。

入口を入った辺りである人物を見た近右衛門は無表情のまま固まってしまう。


「学園長先生、どうかしましたか?」

入口付近で動かなくなった近右衛門に横島は普通に声をかけるが、近右衛門には珍しく動揺しているのが横島には見えていた。

一瞬さよが幽霊なのを見抜かれ実体化したのがさっそくバレたのかと思う横島だったが、近右衛門の動揺はそれとは違うような気もしている。


(相坂……さ…ん?)

一方の近右衛門だが、その瞬間彼は我を忘れていた。

実体化したさよは服装こそ横島が用意した現代の物だったが、見た目はもちろん彼女が生きてる時と全く同じである。

実は近右衛門はさよの生前を知る人物でもあり、実体化したさよを見た瞬間に彼は六十年前に戻ったような錯覚を感じていたのだ。

それはさよは元より横島や土偶羅ですら知らないことだが、さよは生前に洋食屋だった時代に何度もこの店に来たことがあったのである。

近右衛門にとっても決して忘れられない青春の一ページだった。


「始めまして。 氷室さよです」

近右衛門が固まっていた時間はほんの僅かな時間だったが、近右衛門にとってそれは永遠に近いほど長く濃い一瞬だった。

近右衛門の存在に気付き笑顔で挨拶するさよの姿に、彼はようやくさよが幽霊だと気付く。


(わしとしたことが……)

過ぎた時が戻らないのは十分理解しているはずなのに、先程の一瞬近右衛門は確かに過去に戻っていた。

それがどれほど強い想いだったのかは横島だけでなくタマモも気付いている。

今だかつて見たことがないほど近右衛門の心が動揺したのを気付かぬ二人ではなかった。


「君には本当に驚かされるのう」

その後いつもと同じく酒とつまみを頼んだ近右衛門だったが、ポツリと一言だけ本音を漏らし複雑そうな表情を見せる。


「そんな驚かすつもりはなかったんっすけどね」

近右衛門の反応は横島ですら予想してなかったものだった。

タマモの時も特に驚きもなかっただけに今回も同じだろうと考えていたのだ。

なんとなくさよと個人的な関わりでもあるのかと感じるが、流石にそれを尋ねるほどデリカシーがないはずもない。

横島は申し訳なさそうな表情を見せつつ、サービスとして酒を振る舞うしか出来なかった。



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