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平和な日常~夏~2

さてこの日の麻帆良は夕方を過ぎても、とにかく賑やかだった。

明日から夏休みということで、多くの学生があちこちで騒いだり遊んだりしているのだ。

無論他人に迷惑をかけるほどではないが、学生の街らしく街全体の活気が違う。


そんな麻帆良の街を千鶴は一人で歩いていた。

どうやら麻帆良学園の附属幼稚園で保母さんのボランティアをして来た帰りらしい。


(明日から夏休みですか……)

ボランティア終わりの千鶴は充実したような表情を浮かべ帰路についているが、その思考は表情とは違い少し迷いというか悩みがちであった。

麻帆良祭が終わってしばらく落ち着いていた千鶴の周りだったが、最近また告白される機会が増えて来ていたのだ。

流石に以前のようなストーカー紛いの連中はいないが、よく知らない高校生や大学生から告白されたりラブレターを貰う機会が増えている。

どうやら麻帆良祭で噂になった横島が実は女性が苦手だという情報が、千鶴を狙う連中にも広まったらしい。


(私も普通に恋愛がしたいのに……)

千鶴とて中学生の少女なのだし恋愛に憧れ恋人が欲しいとは思うが、告白してくる男達はいま一つピンと来る人が居ないようなのだ。

千鶴の場合はそれこそより取り見取りと言えるほどいろんなタイプに告白されているが、返事はいつも決まって断りの言葉だった。

まあ麻帆良でも有数のお嬢様と言える千鶴なだけにそう簡単に恋人になれるとは誰も思わないが、あわよくば恋人にと考えた告白や誘いが後を絶えない。

基本的に表には出さないが、千鶴にとってその手の告白や誘いは少々迷惑だった。

中学生離れした容姿や実家のこともあり常に注目を集めるのには慣れてる千鶴だが、反面で彼女は自分にないモノを求めてしまう。

そう……、余計な注目など集めずに普通に中学生として生活したいとの願望が千鶴には密かにある。

そういった意味では似たような立場の木乃香が千鶴は密かに羨ましかった。



「なんか嫌なことでもあったか?」

いろいろ考えながら帰っていた千鶴だったが、気が付けば彼女は横島の店に来ていた。

特別意識した訳ではないが自然と足が向いてしまった感じか。


「あんまり溜め込まない方がいいと思うぞ。 まあ吐き出すのも楽じゃないんだろうけど……」

千鶴は嫌なことがあったのかという横島の言葉を否定も肯定もしなかったが、横島はそのまま千鶴に言葉を続ける。

千鶴はそんな横島に全てを話してしまいそうになる自分に、密かに戸惑ってしまう。

別に横島の言葉は珍しい訳ではないし、特別千鶴だけに優しい訳ではない。

それを千鶴は理解してもなお、横島に自分を受け止めて欲しいと願う心の一部があることに驚きと戸惑いを感じてる。


「ちょっと困ってるんです」

そのまま無言だった千鶴だが、少しの間が空いたのちについ困っているとの言葉を漏らしてしまう。

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