平和な日常~夏~

「おはようございます。 今日は早いっすね」

次の朝、いつもの日課を終えて開店した店に一番に来店したのは刀子だった


「おはよう。 今日はちょっと授業の資料を作らなきゃダメなのよ」

いつものように挨拶する横島に刀子も普通に言葉をかけるが、その視線は絵本を読むタマモに向いている


(訳ありの子を預かったって聞いたから何があったのかと思えば……)

タマモを見た刀子は僅かに一瞬だけ驚きの表情を見せるが、すぐにホッとした表情に変わっていた


(全く誰よいい加減な噂を流したのは……)

この日刀子が早朝から来た理由はもちろんタマモの確認である

横島が訳ありな子供を預かった噂は昨日のうちに刀子にも届いており、実は刀子は昨日の夜も来たのだがあいにく横島がいつもより早く閉めたために会えなかったのだ

さて刀子が確認に来た理由だが、それは横島と子供の関係である

横島本人の子供ではないとの噂が広がっていたが、訳ありな子供を預かったらしいと聞くと気になって仕方なかったらしい


「おはよう。 お名前は?」

「おはよ。 わたしはタマモ」

一方タマモは刀子が見ていたことには当然気付いていたが、一瞬驚いた後に優しい表情に変わったことで特には警戒もしてなかった

普段は見せないような優しい表情で挨拶されてタマモが答えた辺り、刀子も年相応に子供の扱いには慣れてるのだろう


(確かに訳ありよね。 子供の妖怪を助けたのかしら?)

この時刀子はタマモが妖怪なのは気付いていたが、流石に種族までは解らなかったらしい

なんらかの理由で横島が子供の妖怪を助けたのだろうと理解する

刀子自身はあまり自覚がないが、子供が妖怪だったことで横島に女が出来た可能性が低くなった事をかなり安堵していた

あからさまにホッとしたのもその為だろう


「この前麻帆良祭終わったばかりなのに大変っすね」

「今はそれほどでもないわよ。 ただ早朝の方が仕事に集中出来るの」

その後タマモが絵本を読む近くで刀子は朝食を食べながら横島と会話するが、特別タマモの話には触れることはなかった

刀子が知りたいのは子供というよりは横島の方であり、妖怪かどうかは特別気にしてないらしい

まあ妖怪の彼女が出来た可能性もない訳ではないが、普通に考えるとその可能性は低い

タマモの力も微々たるモノで弱く、最近妖怪化した動物でも助けたと考えるのが自然だった


「タマモ、きちんと挨拶したか?」

「うん」

「そうか、いい子だ」

食事は進み目の前で会話する横島とタマモを見ながら、刀子は思わずこんな人の子供が欲しいと思ってしまう

それだけ横島とタマモの姿が微笑ましいのである


「可愛い子ね」

「昨日は大変でしたよ。 なんか俺の子供だとか噂が出ちゃって」

「貴方は結構有名人だものね」

そんな横島とタマモの姿に刀子は一言呟くように言葉をかけるが、横島は昨日の誤解の噂のことを面白おかしい笑い話にしていた

話を聞いた刀子はごく自然に笑ってしまうが、その笑顔は学校では決して見せない笑顔なのは言うまでもない

ちなみにこの日の刀子は朝からご機嫌だと同僚が噂したとかしないとか……



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