平和な日常~夏~

「腹減ったか? 朝飯はちゃんとしたの作るから待ってろよ」

庭の猫達と会話し草花をキョロキョロと見ていたタマモだが、横島が仕込みの為に店に移動しようとすると後ろをトコトコと着いて行く

周りの物全てに興味津々な様子ではあるのだが、あまりに見知らぬ物の連続に不安も多いのかもしれない

古い洋食屋のような喫茶店の店内も彼女にとっては新鮮さと不安が入り混じった場所なようで、結局厨房にまで入って横島が調理する姿をじっと見ていた

そんなこの日の日替わりメニューだが、タマモが好きであろういなり寿司と手打ちうどんにしたようだ

タマモは大量の油揚げが煮込まれる鍋を見て興味津々な様子であり、その他にも調理が進む食材の多さに作る量が多いことに気付く


「ここは店なんだよ。 お客さんが来て食べ物や飲み物を食べたり飲んだりするんだ」

不思議そうに見つめるが疑問は口にしないタマモに横島は少し笑ってしまい一つ一つ教えるが、どうやらタマモはあまり余計なことを言ってはいけないと感じたらしい

そのまま横島は仕込みを続けていつものように店を開けるが、見知らぬ和服姿の子供が居ることに近所の住人の常連達は当然驚く

横島が知り合いから預かった子供だと説明するとほとんどは納得するが、タマモは無口な上に横島の周りから離れないため人見知りな子供だと思われることになる


その後は朝食を食べに来た客に混じってカウンター席の端でいなり寿司ときつねうどんを食べるタマモだったが、横島の姿が見えなくなると途端に不安そうな表情に変わる

そんな僅かな変化が常連の笑みを誘うのだが、タマモ本人は相変わらず不思議そうであった



「えっ!? マスターに子供がいた!?」

「いえ本人の子供ではないと思われます。 全く似てませんので」

一方この日の2-Aの教室では、茶々丸がタマモの件を美砂達に話してしまい新たな騒動になっていた

この件に関しては横島が迂闊だったのだが、茶々丸に対してタマモとの関係を説明せずにしばらく住むことになったとだけ告げたことが新たな憶測と噂を呼んでしまう


「ちょっと木乃香、あんた知ってたの!?」

茶々丸の話を聞いたクラスメートは一気に木乃香の元に集まるが、当の木乃香も知るはずはなく半信半疑な様子だった

普通に考えれば親戚の子供で済むのだろうが、横島は以前に天涯孤独の身だと言った過去もあり問題を更にややこしくする


「似てなくても実の子って可能性もあるわよね」

「でも流石に三~四歳の子供が居る年じゃ……」

「横島さんに子供が居たというのは、正直有り得ない気がします。 それよりは訳ありな元カノの子供を預かったとかの方がありえるかと」

「また騙されたの?」

自分の一言から憶測が憶測を呼び噂が飛躍する状況に茶々丸はオロオロするが、すでに事態の収束は不可能だった

噂好きなハルナや朝倉は元より、夕映や明日菜まで勝手な憶測を始めるから収束などするはずがない

結果的に新たな憶測と噂は、一気に麻帆良中に広がることになる


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