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麻帆良祭

街は日暮れと共に更に混雑しており、麻帆良のあちこちでは前々夜祭と称して様々なイベントをしている


「何か食いたい物あるか?」

「えっと……、お任せします」

横島と明日菜は仮設店舗のある大学生部近郊を離れ中心街である世界樹の方へ移動しながら夕食を何にするか話すが、やはり明日菜の表情は微妙に硬く緊張気味だった


「それじゃあ、美味しい物と微妙な物どっちがいい?」

「そりゃ美味しい物がいいに決まってます。 ……ってその選択肢は何なんですか!?」

夕食を任せると言った明日菜に横島は何故か奇妙な選択肢を尋ねて、明日菜は思わずツッコミを入れてしまう

こんな時に限って周りを歩く恋人達に目が行き自分達も恋人に見えるのかと意識していた明日菜だが、横島の意味不明な発言に意識していた緊張感が一気に砕けたらしい


「いやさ、店舗に出してるカレーをパクった店があるって聞いたから行こうか悩んでたんだよね。 ただ噂ではあんまり美味しくないって聞いたからさ」

昼に刀子とシャークティに聞いたレストランに行こうかと考えていた横島だったが、せっかく明日菜と二人だから美味しい店がいいかと悩み始めていたようだ

ただ微妙に恋人気分を味わっていた明日菜は、横島の無神経さに深いため息をつく

別に横島が悪い訳でも横島と恋人になりたい訳でもないが、肝心な時に空気を壊すのはある意味横島らしいと感じると素直に笑えなかった


「横島さんって忙しいの嫌いなのに仕事は熱心ですよね」

今回の麻帆良祭の出し物で明日菜は、横島の仕事に対する熱意には素直に驚いてる

元々有能なのに怠け癖と言うか忙し過ぎるのが嫌だと言い切る横島が、ここまで熱心にやるとは思わなかったらしい


「う~ん、別に仕事のつもりじゃないんだけどな。 ただ俺は楽しんでるだけだし。 それに明確な答えがない料理ってやつが面白いのもあるかな」

微妙な表情で語る明日菜に横島は僅かに苦笑いを浮かべて自分も楽しんでるだけだと話すが、料理が楽しいとか面白いと感じてるのは確かだった


「答えですか?」

「ああ、誰もが美味しいと感じる料理なんて絶対に作れないからな。 だから面白いと感じるんだと思う」

始めて聞く横島の料理に対する価値観に、明日菜は若干驚きの表情で見つめている

普段は真面目に自分の想いなど語ることが少ないだけに、その本音には驚きを感じてしまうようだ


「とりあえず飯にするか。 この辺りで美味しいって評判の店あるからそこにしよう」

いつの間にか自然な形で手が触れるような距離で並んで歩いていた横島と明日菜だが、街は人で溢れており早めに店を決めて近場のレストランに向かうことにする


(なんか悩みでもあるのかと思ったけど大丈夫そうだな)

明日菜の表情から硬さが消えて、いつもの調子に戻ったことに横島は密かにホッとしていた

何か悩みでもあるのかと少し心配していたらしい

先程から表情が硬かった明日菜を密かに心配はしていた横島だが、かと言って必要以上に明日菜の感情などを見て探ることもしたくなかったためちょっと困ってたようだ

その気になれば記憶どころか前世まで見える能力があるのも楽ではないらしい


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