夕方になると麻帆良の街は更に賑やかになっていく

麻帆良祭の名物である夜のパレードやイリュージョンなど、夜の各種イベントも一斉に最終予行練習を行うのだ

麻帆良の住人などは市外の観光客で混雑する本番よりも今日の練習の見物の方が人気だったりする


「特選和牛ステーキ一人前とフカヒレの姿煮一人前入りました」

そして夕方の仮設店舗でも本番を見越して本格ディナーの販売を始めていた

この本格ディナーは基本的に横島・超・五月に全て任された個人メニューとも言える

まあサポートや調理のメンバーも補助はするが、基本的には横島達三人の個人の力量に頼り販売するメニューだった

本番では三日間のうち横島・超・五月の三人が夜の時間を担当するのは一人一日になるため、日替わりの限定メニューになる予定なのだ

この日は三千円のディナーメニューを横島達がそれぞれ一つずつ提供しており計三種類出していた

横島が提供したのはシンプルに《和牛ステーキ》であり超が《フカヒレの姿煮》、そして五月が《アワビのオイスターソース煮》である

このディナーメニューの特徴は通常の半額にして貰っている原価が、更にギリギリだというメニューだった

いわゆるサービスメニューであり、いくら売れても全く儲からないメニューな為数量限定にするしかなかったのだ


「横島さんを見てると簡単そうに見えるんだけどね……」

「調理法がシンプルな分、力量が出るのでしょうね」

霜降り和牛のサーロインを慣れた手つきで焼いている横島だが、明日菜と夕映は見た目だけだとどうしても凄い人には見えなかった

一応コック服を着てるのだが、横島だとせいぜいファミレスのバイトにしか見えない

料理人らしいオーラも緊張感もない横島は、木乃香や千鶴など自分の時間が終わった者達に料理教室のようにコツを教えながら調理しており、とてもプロには見えないのだ


「気のせいかも知れませんが、ディナーを頼んでる人が隣の雪広グループの人達が多いような……」

この時夕映と明日菜もすでに自分の時間が終わりあちこち手伝ったりしているが、ディナーメニューを頼んでる客にはここ数日で顔見知りになった雪広グループの社員が多かった

元々雪広グループ側の人間も昼ご飯などはこちらに食べに来てたので違和感ないが、ちゃっかり毎日来てる者も多い


「横島さんだもんね」

身近な関係者が多く来るほど安くて美味しいのだろうと考えると、明日菜は横島の普段の店と同じなのだと感じたようだ

現状では決して横島が目立ってる訳ではないが、どこか横島らしさがあちこちに現れている


「商売敵に回らなくてよかったと思うです。　あんな人に近くで営業されたら大変では済まされないでしょう」

明日菜はいつの間にか横島色に染まりつつある仮設店舗に苦笑いを浮かべているが、夕映は味方でよかったとシミジミ感じている

もし仮に横島が他のクラスやサークルに加わっていたらと思うと、ゾッとするだけでは済まないと思うらしい


「確かにそうかも……」

もし横島が他のクラスに加わっていたらと言われると明日菜も複雑な表情を隠せなかった

正直に考えられないと言うのが本音だし、そんな事態が起こらなくてよかったと本心から思ってしまう