麻帆良祭

「あれだけの金持ちで一人で電車に乗るってすごいな」

「今でもたまには電車通勤してる日もありますから。 駅で立ち食い蕎麦を食べたり、帰りに焼き鳥屋で一杯飲むのが好きなんです」

日本を代表する金持ちの日常生活に、横島だけでなく2-Aの少女達も唖然としてしまう


「そんなことしてると自分とこの社員とかに会うだろ?」

「ええ、満員電車で隣にお祖父様が居てビックリされる社員は多いようですわ。 後は偶然居酒屋でお祖父様と仲良くなった方が、実は末端の社員だったなんて話もありましたわね」

何かと常識では計れない清十郎の話は、まるで物語の主人公のようであった

それは半ば彼の趣味からであったようだが、世の中の空気を直接感じることが必要だとの考えからでもある

エコなどの言葉が流行る以前から雪広グループでは月一回は重役の電車通勤を推奨するなど、風変わりなことをしていることも有名だった

そんなとんでも逸話に少女達は、金持ちはやはり違うと納得と言うか誤解してしまう


「では皆さん、今日はしっかり休んで下さい」

その後相変わらず賑やかに騒ぎながらも掃除と後片付けを終えて、この日は早々に解散していた

本当はインテリアの続きや反省会でも必要なのだろうが昨夜の徹夜もあり、みんなの眠気がピークに達していたのだ

まだ部活やサークルの準備で数日は忙しい者もいるし、今日は早く帰って休むことになる

今日は横島と同じく連続して徹夜していた超も流石に疲れの様子があり、クラスメート達と一緒に寮に帰っていた


「さて俺達も帰るか」

「はい! それにしても元気ですね」

みんなが帰るのを見送った横島はさよと一緒に帰るのだが、徹夜続きにも関わらず元気な横島がさよは少し不思議なようだった


「俺はちょっと特殊だからな。 何日か寝なくても平気なんだわ」

「凄いですね!」

詳しい事情を避けつつも自分は特殊だと語る横島だが、さよは細かいことは気にしないらしくただ単に凄いとしか感じないらしい

流石に幽霊としてずっと俗世間から離れてるために多少感覚がズレてるようである


「皆さん楽しそうでしたね」

「若いっていいよな~ ちょっと羨ましくなるよ」

日が暮れた麻帆良の街をコブラで帰路に着く横島とさよだったが、二人は無邪気な2-Aの少女達がちょっと羨ましかったようだ

まあさよも横島も楽しかったのは変わらないが、さよは一緒に参加出来ないことが少し寂しいようだった

(本当は友達を増やしてやりたいんだがな~)

ここ数日一緒に居るが日中はほとんど話を出来ないし、夜も人が居れば話は出来ない

横島はさよがおしゃべり出来る同性の友達を増やしてやりたいと考えてるが、それにはいくつか問題があった

まず問題はさよが誰と友達になりたいかによるが、友達になりたい相手に見えないと話にならない

まあ正直横島ならばさよが一般人にも見えるようにする手段はいくらでもあるが、問題は魔法使いへの対応である

実は魔法使いにもさよが見える者が居ると考えている為、横島が勝手にさよを見えるようにするのは些か問題があった

暗黙の了解の元で魔法協会に迷惑がかからないように生活する分にはいいが、流石にさよを見えるようにするには事前に話を通すなどして根回しは必要なのである

とりあえず当分は難しいと言わざるおえなかった
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