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麻帆良祭への道

その日横島と千鶴が仮設店舗を離れたのは東の空が明るくなってきた頃だった

超と葉加瀬は工学部の研究室で仮眠すると言うので横島は千鶴を寮まで送って行くことになる


「こんなとこ誰かに見られたら、また新しい噂が増えるな」

早朝の街を走るコブラは朝の空気の冷たさが少し寒いくらいだった

時折すれ違う車や人が知り合いだったらと思うと、横島は苦笑いを隠すことが出来ない


「私は面白いと思いますよ」

「中学生を連れて朝帰りなんて噂が広まってみろ。 また、なんて言われるのやら……」

横島の新たな噂を想像してか僅かに楽しそうな笑みを見せる千鶴だが、横島は自分のことなだけに素直に笑えないようだ

まあ最近はあまりに噂が増えすぎて、逆に信憑性が無くなって来てるのでそれほど真剣に悩んでる訳ではないが……


「えっ……!?」

しかし横島と千鶴は肝心なことを忘れていた

この時間に毎日新聞配達をしてる少女が身近に居ることを二人はうっかり忘れている

というかまさか本当に知り合いに見られるとは思ってないのだろう

新聞配達に向かっていた明日菜が、見慣れたコブラに乗る千鶴を見て固まっていたなど思いもしなかったらしい



「ちょっとは寝といた方がいいぞ。 下手すると今夜辺り徹夜になる可能性もあるからな」

「はい、わざわざありがとうございました」

結局横島は千鶴を寮の前に送り届けて帰っていくが、その姿は端から見ると朝帰りの恋人にしか見えなかった

そして麻帆良祭の準備などで朝一で出かけようと起きていた複数の中学生に窓から二人は見られてしまうが、それが本当に新たな噂になるとは横島も千鶴も思わなかったようだ

近所の名物マスターが中等部で五本の指に入る美女と名高い千鶴が朝帰りなどすれば、当然新たな噂になるのである



「木乃香! 大変よ大変!! 横島さんと那波さんが朝帰りしてたわ!」

そしてそれから30分ほど過ぎた頃、いつもに増して新聞配達を早く終えた明日菜はまだ寝てる木乃香を叩き起こして先程見た光景を話していた

明日菜が見たのは横島の車に千鶴が乗っていただけなのだが、明日菜はやはり勝手に朝帰りと勘違いして伝えてしまう


「うーん……、横島さんが那波さんと……?」

体を揺すられながら叩き起こされた木乃香は眠そうに血相を変える明日菜の話を聞くが、半信半疑と言うかイマイチ頭が起きてないようである


「……流石に那波さんは無いと思うわ~ アスナ寝ぼけてたんやないん?」

「私は起きてたわよ!!」

とろんした目を擦りながら聞く木乃香は明日菜の見間違いだろうと言い再び布団に潜り込もうとするが、明日菜は絶対千鶴だったと言って聞かない


「横島さんと那波さんが付き合ってるとしても、やっぱり朝帰りはないと思うわ~ 天文部の手伝いでもしたんやないん?」

「それもありそうね……」

明日菜は夜明け前に横島と一緒の千鶴を見て興奮していたのだが、冷静な木乃香の意見に明日菜の興奮は一気に覚めてしまう

割とインパクトが強い光景だっただけに明日菜は一気に勘違いをしたが、すでに図書館探検部で深夜に木乃香達と出歩いてる事もあり、朝帰りよりは天文部に関わる手伝いだとの意見に納得していた


「起こしてゴメンね、寝ようか……」

「おやすみアスナ」

興奮が冷めると女の人に騙されて臆病な横島が千鶴と朝帰りは無いと確信した明日菜は、渇いた笑顔で木乃香に謝り眠りについていく

流石に二人は横島との付き合いが長いだけに信頼しているようだった


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