二年目の春・10

翌日は横島の誕生日である。

恒例となった誕生パーティーはハニワ兵も参加させたいというタマモの意向で、異空間アジトで行うことになったのでタマモとハニワ兵たちが張り切っている。

麻帆良ではまだ麻帆良祭の後始末は残っているところも多いが、この日からは平常授業となっていて少女たちは朝から授業を受けていた。


「やはり落ち着くのう」

一方横島の店では朝食の時間も過ぎて、常連の年配者たちがのんびりと将棋や囲碁を楽しんでいた。

麻帆良祭の準備と仮説店舗の営業で、横島の店も久々の平常営業だった。

まあ常連の彼らは休業中も横島に断り店に来ていたのだが。

横島自身は朝の仕込みから出勤前の朝ごはんを食べに来たお客さんの対応と相変わらず忙しい朝だったが、人が途切れたことでコーヒーを飲み一息ついてしばし考え事をしている。

実は今朝詠春からガトウのことについて連絡が来ていて、エヴァの年齢詐称薬か別の変装アイテムがあれば用立てて欲しいと言われたのだ。

無論関西にも変装の術はあるが、東洋系の術は関西では知られているのでバレる危険が多少あり、念のためより安全なものが欲しいらしい。

いつまでも屋敷に閉じ込めておく訳にもいかなく、かといって死んだと思われているガトウが堂々と町を歩いて顔を知る者にでも見つかれば、騒ぎになるのが目に見えていた。

魔法界では顔を知らぬ者がいないほどの偉人であり、いくら日本でも軽々しく外を歩けないのだ。


「タマモちゃんはどうしたんじゃ?」

「ああ、アナスタシアのところに遊びに行ってますよ」

この日の店内は静かだった。いつもならば元気な笑顔を見せてくれるタマモが朝からまったく姿を見せないからだろう。

常連の年配者は少し物足りなそうに横島にタマモのことを訊ねるが、タマモが得意のサプライズで横島の誕生日に準備をしに行ったので横島本人は聞いてなかった。

一応ハニワ兵と一緒にエヴァの家に行ったのは承知しているが、ただタマモがエヴァ宅に遊びに行くのはチャチャゼロと遊びに行くので珍しくはない。

ちなみに横島はガチで自身の誕生日を忘れていたりする。

ガトウに持たせる常用の変装アイテムをどうしようかなと考えつつ、カウンターの中でノートパソコンにて魔法世界のニュースを見ているのだ。

相変わらずクルトの一件は盛んに報道されていた。

元英雄の元老院議員が軍や元老院を巻き込みクーデターを計画していたという衝撃は、メガロメセンブリアに留まらない。

メガロ当局が真相を隠蔽しているので彼の計画の真相は依然として表沙汰になってないが、世界の秘密を知る一部に者は裏になにかあると気付いているだろう。

実際日本にはクルトの件で詠春や高畑に取材したいと魔法世界のマスコミなんかも来ていて、東西の魔法協会は対応に追われている。

尤も今のところこれ以上のコメントも会見の予定もないのだが。

新たな事件なりスキャンダルなり起きて世間の目がそちらに向かない限りは中々現状が変わらなそうだった。

それと近右衛門からは超鈴音の実験したカシオペアのデータを見て欲しいとも言われていて、提出され次第横島が見ることになっていた。

超鈴音を疑う訳ではないが、彼女の技術を確認して危険や問題がないか調べられる人材が他に居ないのだ。

近右衛門の時間移動対策が必要だという超鈴音の意見に反対ではないらしい。

横島としては土偶羅がいれば問題ないと思うのだが。


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