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二年目の春・10

この日の夕食はカレーだった。

麻帆良カレーではなくごく普通のカレーだったが、煮込む匂いが食欲をそそる。

タマモは散歩でだいぶ気分が直ったのかお絵描きをしていて、他の少女達もようやく落ち着いた感じか。


「それで小竜姫様って神様と一緒に住んでたのよね? どんな生活だったの?」

ただ少女達の小竜姫に対する興味は未だに消えてなかった。


「どんなって話、修行をさせられたりしてただけだぞ。 別に小竜姫様と二人で暮らしてた訳じゃねえし。」

対する横島は先程の小竜姫の思いもよらぬ行動に戸惑ってもいるが、元々妙神山に居た頃は斉天大聖が居てパピリオがいてジークが居てとそれなりに人も居て賑やかだった。

年頃なせいか興味津々な少女達に横島は、カレーの鍋をかき混ぜながらしばし過去に想いを馳せる。


「妙神山ってのは山奥の人が全く居ない場所でな。 小竜姫様はそこにあった神族の拠点の管理人をしてたんだよ。」

アシュタロスやら世界の終焉の話と違い、明らかに興味津々な少女達に横島は少し苦笑いを見せながら小竜姫との出会いから妙神山に住むようになるまでの話を始める。

セクハラなど多少知られたくない過去は隠したが。


「日常は本当修行と掃除ばっかりだったなぁ。 俺の場合は修行らしい修行したのその頃が初めてだし。」

「修行もしないのにアシュタロス倒しちゃったんだ。」

「非常識なところはナギとよく似ているな。」

高校卒業を機会に身の安全の為に妙神山で暮らすことになったところまで話は進むが、話を聞いていた少女達は横島がろくに修行もしなかった事実に呆気に取られてしまう。

一方高畑と穂乃香にアナスタシアは、非常識さではナギと横島はいい勝負ではと改めて理解した。

ナギもまた魔法学校を中退するほど魔法使いとしては落ちこぼれで、実戦と天性の才能で生きていたのを思い出したらしい。


「アシュタロスはな。 倒したと言えるのか微妙だけどな。 死にたがっていた奴に止めをさしただけだからな。」

少女達に悪気はないのだろうが、アシュタロスを倒したという言葉を使ったことに横島は微妙な表情を見せた。

結果的に止めをさしたのは事実だが、全てはアシュタロスの筋書きとも言えなくもない。

誰も踏みにじりたくないし、誰にも踏みにじられたくない。

結果としてアシュタロスはかつて自身に反逆したメフィストと、新たに生み出した三姉妹に自身の終わりを託したのだ。

横島自身はそれを引っ掻き回しただけの気もしていた。


「生きてれば良いこともあるのにね。」

「本当にそうだよなぁ。」

死を願う魔王の複雑な最後にまき絵は不思議そうに良いこともあるのにと呟き、横島は笑ってしまう。

馬鹿な呟きではあるだろう。

ただ横島の本質は意外にまき絵と共通するところがあるので、理解できてしまう。

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