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二年目の春・10

異空間アジトの午後、横島達は各々が好きなことをしていた。

昨日までの騒ぎからか少し気が抜けたようにのんびりしてる者も居れば、読書や体を動かしたりする者もいる。

横島の過去については少女達は気になった事を質問したりすると、横島は少し悩みながら答えたりしていた。

かつての仲間の死や神魔の争いなどよりは、昨日土偶羅が語らなかった横島の普通の日常についてがほとんどだが。

まだ消化しきれてないのが本音だろうが、横島の過去を知り何かを変えようと思った者が居ないのは少女達の大きな成長だろう。


「あのおしゃべりが喋った以上は誰が知ってても可笑しくないからな。 中途半端に善人や英雄にされるのは勘弁して欲しいな。」

横島としては正直魔王をあまり信じてない。

敵に回る可能性は多くはないとは思うが、アシュタロスとの戦いなどの話が広まり中途半端に善人や英雄にされるのは本当に嫌だった。

半ば愚痴るようにぼやく横島に、少女達はやはり横島は横島なんだと改めて感じる。

見方を変えれば自己中の魔王にも見えるかもしれない。

決して世のため人のために生きるなんて、更々ないのが横島という男だ。

しかし義理人情に厚く目の前で困ってる人、特に女性は放っておけないのが何処か憎めなかった。


「第三者から話だけ聞くと多分そう見られますね。」

「前の世界では美神さんって人が英雄になってたが、神魔戦争の余波で嫌気がさして辞めちまったからなぁ。」

「魔法世界でも聞く話だね。 ちやほやしてるうちはいいが、そのうち当たり前のように英雄になることを求める。 結果として陰匿生活になる人も過去には大勢いたからね。」

過去というよりは現在やこれから英雄にされることや、英雄を求められる事を横島は警戒して愚痴っている。

女性陣はある意味横島らしい姿にホッとしているが、高畑は割と他人事でない部分もあり同情的だ。

実際赤き翼の詠春やラカンも同じような理由で表舞台に立っていない。

民衆とは勝手だった。

赤き翼も支持や人気は今でもあるが、同時に赤き翼に対して厳しい態度を示すメガロメセンブリア元老院に対しておかしいと声を上げて糾弾するところまではいかない。

大戦の反省を口にしつつも、責任は当時の役職を降りただけの元老院議員達を失職させることすらしてない。

高畑にしても半ば無償で奉仕するので支持されているが、一歩間違えればクルトのようにそっぽを向かれるのをよく理解していた。

英雄や立派な魔法使いは対価や地位を求めず、ただ世のため人の為に戦うとの勝手な理想を押し付けているのが魔法世界の大多数の人間だった。


「でもさ。 モテモテになるんじゃない?」

「金とか力とか地位に寄ってくる女なんて要らん!」

「マスターって純情よね。」

一方美砂はあれだけモテたいと日頃から語る横島が、金や力や地位に寄ってくる女を拒絶することに苦笑いを浮かべる。

きっかけはどうであれよく知ればいい相手もいるかも知れないと考えるようだが、今まであまり明らかにならなかった横島の人間不信が微妙に露となっていた。

学生時代に散々コケにされたトラウマが未だに残るのが原因だろうが。

まあ女性陣からすると横島が見境なしに女をもてあそぶようなことをするなら、幻滅する者も少なくないのでこれでいいんだろう。

少なくとも過去を絡めた本音を愚痴ってくれる事を一歩前進だと捉える女性陣は多かった。


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