二年目の春・10

「……おっ。 タマモ。 探しに来たのか?」

小竜姫の消えたシミュレーター内部では呆けていた横島にタマモが抱きついていた。

横島がいつものように抱き上げてやると、タマモは瞳を潤ませてしがみつくように抱き締めている。


「心配して来てみたら、イチャついてたなんて……」

「……ん?」

そしてタマモを追うようにシミュレーター内部に足を踏み入れた少女達は、何とも言えない表情をしている。


「ちょっと待て。 別にイチャついてなんてないぞ! ちょっと気晴らしに体を動かしてただけだからな。」

「まあ、横島さんらしいといえばらしいですね。」

横島にイチャついてたなんて意図はないが、端から見たらそうとしか見えない。

特に最後なんかは。

あの人と十年も暮らして、あんな感じで何もなかったという横島と小竜姫が不思議で仕方なかった。


「大変だったんだね。」

「ちょっとビックリしたよ。 泣いていいよ。 」

涙がなかったのは、小竜姫の予期せぬ行動のおかげかもしれない。

桜子やまき絵はあまり深く考えてないのか安易に同情や慰めの言葉をかけるも、横島は少し困ったように反応するしか出来なかった。


「大丈夫だ。 何にも失ってない。 必ず取り戻せるからな。」

他の少女や刀子やアナスタシアに穂乃香や高畑も心配げに見ていたが、横島は少し恥ずかしげにしつつもしっかりと前を向き答える事が出来ていた。

ほんの僅かな勇気を絞り出す事が出来たらしい。

ただそれはやはり自分の為ではなかった。

小さな体で精いっぱい悲しみと戦うタマモや、横島を心配する人達の為に絞り出すことが出来たのだ。


「横島さん……」

「マスター……」

「さあ。 帰って飯食って寝るか。 徹夜明けでそろそろ眠いぞ。」

最後に土偶羅が少女達に語っていた。

横島には神にも魔にもなれる選択肢があったと。

その力とアシュタロスの遺産があれば、主神や魔王すら可能性は十分あった。

しかし横島はそれを選ばなかったのだ。

結局横島も少女達もほとんど何も語ることはなく、変わらぬ日常を続けることになる。

神話でも物語でもないリアルな過去であり歴史があってこそ、今があるという皮肉をわずかに感じながら。


「……一応聞くけど。 マスター不能じゃないわよね?」

「そんな訳ないだろうが。」

ちなみに美砂はもしかして横島が不能かと新たな疑惑を感じていたが、横島は疲れたように否定した。


「本当に? 精神的な理由から不能になるって聞くし……。」

「アホか。」

散々悩み隠した過去も少女達は変わらず居てくれることに横島は感謝しつつ、不能疑惑だけは心底迷惑そうな顔をする。


「ここは確かめてみるしかないわね!」

「確かめんでいいわ! 年頃の女の子が言うことじゃねえ!」

ちょっと余裕が生まれたのか美砂は不能疑惑を確かめようと言い出すも、横島はそんな美砂に本気でお説教をしていた。

かつてはセクハラ三昧だった横島も大人である。

年頃の女の子にそんなことされる訳にはいかない。

というか本当にやりかねないと冷や汗をわずかに流してしまい、他の少女達や刀子達に笑われていたが。


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