横島君のお店開店

「日本茶にコーヒーに紅茶にジュースも一応買うか」

さっそく近くのスーパーに買い物に来た横島だったが、木乃香達に飲み物のリクエストを聞くのを忘れたため適当に飲み物を買っていく

実は昨日買った携帯電話で木乃香に聞けば済むのだが、その考えは浮かばないらしい

危険がある非日常では深く考える習慣が出来た横島だったが、平和な日常では昔と変わらず何処か抜けていた


「お茶請けはケーキでいいか、ってかあの三人ご飯食べたのかな~ 俺一人ならカップメンでいいんだが……」

自分の事ならば適当でいい横島だったが、相手が女の子になると余計なほど気を利かせてしまう

簡単な昼飯くらいは作ってやろうかと食材や調味料やフライパンなど買い込み、最終的には大きな袋三つとケーキをと両手に荷物を大量に持ち帰る事になる



一方木乃香達は横島の借りた建物を見学していたが、予想よりも広い物件に驚いていた


「地下室も広いし三階には部屋六つもあるわ。 なんでこんな大きな家借りたのかしら?」

「建物自体はかなり古いですね。 おそらく図書館島と同じ明治初期の物でしょう。 戦後麻帆良の街も著しく近代化したので、個人の店舗でこれほど古い物件は珍しいかもしれないです」

「占い屋さんやればええのになー」

明日菜・夕映・木乃香はそれぞれに感想を述べるが、三人共通するのは横島の考えが分からないところだろう


「うわ…… テレビと電子レンジを床に置いてるわよ」

「やっぱ男の人やなー」

「荷物は占いの道具と着替えが少しだけですか……」

一階・地下・三階へと回っていた三人は次に二階に行くが、生活用品がまるでなくテレビ・冷蔵庫・電子レンジしかない現状に唖然としている

加えてテレビと電子レンジが無造作に床に置かれた現状に、三人は横島の生活力に改めて不安を感じたのは言うまでもない



「待たせてゴメンな」

横島が戻って来た事で三人は再び一階に戻るが、横島は三人にリクエストを聞き飲み物を入れていく

幸いな事に一階の店舗には元の店の食器や業務用の冷蔵庫などが残されている

包丁などの調理器具などはないが、前の老夫婦がほとんどの物を置いて行ったらしい


「三人とも昼飯食ったか? まだかと思って一応食材も買って来たんだが」

「ウチらはまだや。 一緒に食べに行こうかと思うたんやけど……」

「じゃ簡単な物を作るから一緒に飯にするか」

元レストランの厨房で買って来た調理器具や調味料や食材を見た木乃香達は、驚きと不安が入り混じった表情だった

お世辞にも料理が出来るようには見えない横島なだけに不安なのだろう


「ねえ料理作れるの?」

「多分大丈夫だと思うぞ。 一人なら料理なんてしないけど、一応それらしい仕事した経験はあるしな」

遠慮がちに料理が出来るのか確認する明日菜だったが、その答えは少し意外なものだった

しかし元々横島はきちんとした料理などした経験はない

受け継いだ魂の経験には魔鈴を始め料理上手な者が居るので、多分作れるはずだと横島は考えている

多分と付くのは、実際に横島が彼女達の魂の経験から料理を作った事がないからであった

彼女達の魂の一部を受け継いで随分時が過ぎたが、のんきに料理をする余裕など横島にはなかったのだから



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