二年目の春・7

「クルト……。」

同じ放課後のこと。

女子中等部では高畑と刀子が一緒にクルト・ゲーデルの動きを聞かされていたが、高畑も刀子もクルトの動きは以前から注視していたので共に驚きはない。

しかし高畑は越えてはいけないラインを越える決断をした盟友に言葉に出来ぬ感情を高ぶらせてしまう。

離れて会うことが無くなったとはいえやはり高畑にとってクルトは赤き翼の仲間であり家族だった。

本来ならば今すぐにでも会いに行きぶん殴っても間違いを正したいのだろう。


「これが英雄と呼べる者の現実かもしれんのう。 ナギや婿殿もまた決して正攻法で戦争を止めた訳ではあるまい。」

「成功したから英雄で失敗すればテロリストになったと?」

「そこまで言わんが結局一般的なやり方では変えれんことをやろうとすると最終的にはこうなるのかもしれん。」

近右衛門は決してクルトを責めるようなことは口にしなかった。

好む好まないに関わらず綺麗事だけでは生きていけないし、近右衛門もまた法や倫理を越えた次元で先を見据えて動いているのだから。

赤き翼が戦争を止めたことに関しても止めるために多くの罪もない血を流しただろうし、連合帝国双方に巣くう秘密結社を炙り出すのに正面から法律に乗っ取り適正に調査した訳ではない。


「明日は我が身かもしれないのですね。」

刀子はそんな近右衛門の言葉に他人事だと考えていた自分も決して他人事ではないと気付かされる。

麻帆良も関西も決して順風満帆ではない。

無論近右衛門はそんな決断をしなくてもいいようにと今からあがいているのだが。


「高畑君。 君が止めに行くというならワシは止められん。 じゃが行くなら覚悟することじゃ。 魔法世界の行く末に最後まで付き合う覚悟をな。」

そして高畑に対しては近右衛門は今回ばかりは行くなとは言えなかった。

詠春とも相談して恐らく高畑は行かないし行けないだろうと考えているが、今回ばかりは決断だけは自分でしなくてはならないしさせてやらねばならない。

赤き翼として麻帆良の住人として今まで精一杯生きてきた高畑に、ここで信念を曲げろとはいくら高畑を案じても言えないことだった。


「行けませんよ。 僕が行くと多くの人達をも巻き込んでしまい誰にも止められなくなります。」

しばしの沈黙の中で近右衛門と刀子は高畑の答えを待つが、今の高畑は一年前とは違い多くの現実が見えている。

今も魔法世界に多く存在する赤き翼に憧れ信じてくれる人達や麻帆良の仲間達に、場合によっては明日菜や横島達すら巻き込んでしまうかもしれない立場なのだ。

そしてここで止めに行けば魔法世界の問題や政争に巻き込まれ二度と麻帆良で今のような生活に戻れない可能性も高い。


「少しだけ学園長や詠春さん。 それに横島君の気持ちが理解出来る気がします。 力や影響力に守るべきモノが大きければ大きいほど動けなくなる。 誰だって魔法世界の滅びなど望んでないのに。」

自分一人の責任と命で済むなら高畑は今すぐにでも魔法世界に行きクルトをぶん殴ってでも止めただろう。

しかし今の高畑が動けばあまりに多くの者達を巻き込んでしまう。

クルトは多くの者達を巻き込むことで魔法世界を救おうとしているが、高畑にはそれはとてもじゃないが出来ることではない。

動きたいのに動けない。

高畑は今になり何故近右衛門達が苦労しているのか身をもって理解していた。


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