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二年目の春・7

「美味しいね。」

「カロリー高そうだけどね。」

さてこの日の店では日替りメニューの揚げ饅頭が人気であった。

少し手間だが一口サイズの小さめの饅頭にして食べやすくかつ値段を安くしたことで飲み物のお供に最適なのだ。

揚げたてで食べると外はしっとりとしていながら中はほくほくであり、中身の甘さと油のマッチも絶妙なので後を引く美味しさになる。

飲み物は甘くないお茶かコーヒーが人気で安くしているからか、ついついあと一つと追加で頼む客も多い。


「見てる分には簡単そうなのよね。」

一方の厨房では明日菜がバイトとして手伝いをしていたが、横島が作る姿を見てると自分でも出来そうに見えるから不思議だった。

もちろん見えるだけで同じものは作れないが。


「そんなに難しくないぞ。 麻帆良祭の時みたいに温度を一定にして時間もきちんと計れば出来るはずだ。 揚げパンだけでなく揚げ饅頭も考えてみっか?」

「そう? でも横島さんのとなんか違うのよね~。」

この日揚げ饅頭にしたのは特に理由はないのだが、麻帆良祭のメニューには揚げパンを考えてるように揚げ物が欲しいので何となく揚げ饅頭を出してみたらしい。

今までにも何度か揚げ饅頭を日替わりにしたことはあるが、総じて評判はよく麻帆良祭でも一日くらいは出してみたら面白いかと横島は考えている。

ただ明日菜とすれば横島と同じ味は大量に作れないので、それを加味して考えねばと思ってるが。


「明日菜ちゃんも味が分かる女になったか?」

「そんなんじゃありませんよ。 ただ横島さんとか木乃香の味くらいは分かるつもりですけど。」

木乃香に夕映にのどかにと周りが目立つほど成長してるせいか今一つ成長が目立たない明日菜であるが、勉強に料理に社会活動にと木乃香達よりは劣るが確実に成長はしている。

勉強の成績が安定していて自分に自信もついて来てるし、料理の腕や味覚も本来の歴史より成長していた。

戦闘経験がないことでそっち方面は全く成長してないが、代わりに本来の歴史においては使えなかった普通の魔法も初歩ながら使える。

何より人として成長してることでより女らしくなったことは本人が気付いてないが大きな変化だろう。


「そう言ってくれると嬉しいなぁ。」

幼い頃はモテる友人と比べて露骨に差別され、思春期以降は母親や令子に権力で価値観を否定され抑えつけるように従わされ続けた横島にとって自分を認め素直に評価してくれる存在は何より嬉しいものだった。

令子との関係が一定以上深まらなかったのもルシオラの問題を抜きにしてそういった築き上げて来た立場や関係があったからでもあり、実は横島は令子よりも十年近く一緒に住んでいた小竜姫の方が関係が進展しそうなほどだったのだが。

少し話は逸れたが明日菜を筆頭に少女達は横島を認め評価して信じてくれるが故に、横島もまた縁もゆかりもない魔法世界のことに関わっているとも言える。

そういう意味では明日菜が守られているのは、ただの偶然でもラッキーでもなく自らの行動の結果であった。

目に見える形で互いに認め信頼しあえる存在は横島にとって大切だった。

例え世界と天秤にかけてでも変わらぬほどに。


「ただいま~!」

その時少しいい雰囲気になりそうな横島と明日菜であったが、ちょうどいいのか悪いのかまき絵が珍しく早く帰ってくるとそんな二人の雰囲気に気付かずぶち壊していた。

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