二年目の春・6

「ぽー!」

「おお、すまんのう。」

一方近右衛門は魔法協会本部にある会長室で魔法絡みの仕事を片付けていたが、少しばかり仕事が溜まっていたことでハニワ兵が臨時に手伝いに来ていた。

今回訪れたのは事務などのデスクワークを仕事としているハニワ兵二体であり、近右衛門が決裁だけするように参考資料を纏めたり報告書の内容の確認したりと精力的に働いている。

異空間アジトは基本的に土偶羅がコスモプロセッサー型システムで管理している世界であるが、そんな超技術による世界においてもハニワ兵という人員によるデスクワークは意外にあり数多くのハニワ兵が事務仕事に従事していたのだ。

無論近未来の映画なんかのようにデスクワーク自体が高度なハイテク化と効率化がされているものの、紙を使った書類なんかも普通に残っているので近右衛門の手伝いもお手の物といったところである。


「うむ、これは……。」

春の卒業と入学のシーズンも終わり学園としては落ち着き始めるこの時期であるが、昨年同様にGWも終わると麻帆良祭まであと一ヶ月半となるこの時期にはすでに麻帆良は学園が認める公式な麻帆良祭の準備期間に突入していて大学部などでは大型のイベント建築なんかを筆頭に準備を本格的に始めていた。

それに伴い魔法協会の方でも警備や諜報対策なんかを中心に様々な雑務が増えたりと大変になって来ている。

特に今年は二十二年に一度訪れる世界樹の魔力の大放出があるので、それを悪用せぬようにと警備なんかを例年より厳重にせねばならない。

なお魔力の大放出には魔力を直接悪用するほかにも世界樹による恋愛の告白を強制成就という半ば呪いとも言える問題もあり、こちらの対処要員も相応の数を用意せねばならないので近右衛門の元にはそれに関連した予算の承認を求める書類や人員の募集や配置リストなんかも複数の案と共に上がって来ていた。

更に各国魔法協会の最新情報から魔法世界の情勢まで決裁が必要ない書類を合わせると相当な数の書類が溜まっている。


「うむ、なんとかしてやりたいがのう。」

そんな近右衛門であるがとある手紙とそれに関連した書類を手に取るとハニワ兵が入れたお茶を飲み少し悩み始めてしまう。

それはネギの祖父から届いた手紙とそれに関連した諜報部からの報告書で、現在メルディアナで保護してあるネギの故郷の村の石化された人を麻帆良で保護してくれることは可能かと尋ねる手紙だった。

諜報部によると地球側ではジョンソン魔法協会など数ヶ所にいる祖父の友人に同じ打診をしているようで、魔法世界ではメガロメセンブリアを筆頭にアリアドネーやヘラス帝国にも内々に打診しているらしい。

ネギの祖父からは同時に新たな石化の治療法があるならば是非とも助けて欲しいとの内容であり、石化された人達の安全な保管場所と同時に可能性は少ないが治療法を現在も求めていることが明記されている。

実はネギの故郷の村の人達が受けたような治療不能なクラスの石化魔法の被害者は地球側と魔法世界の双方でそれなりに居て、解除の研究は二つの世界の魔法関係者が今もあちこちで取り組んでいるものだった。

古い被害者は中世やそれ以前からの被害者も居たりして、ヨーロッパなんかでは石像だと思われていた物が実は石化された被害者だったりしたなんて話もあるし、中には被害者が死んだものだと石化されたまま埋められた物も近年発見されて魔法関係者の間で話題になったりもした。


「さてはて、どうしたもんかのう。」

石化された人達の受け入れは幹部会に話を通さねばならないが人道的な見地から前向きに考えてもいいのではと近右衛門は思うし、もう少し踏み込むならば治療不能な石化の治療をしてやりたいとも考えてしまう。

ただし当然ながら現時点で治療が可能なのは横島くらいしか近右衛門にも浮かばなく、横島が治療するのはどう考えてもよろしくない。

出来れば第三者でも治療可能な魔法でも教えて欲しいところだが横島の世界の技術を広めるのは様々なリスクが生まれるので無理であり、この世界の魔法で治療する魔法を開発してくれればと考えを巡らせていく。


「ワシもどうかしとるのう。」

しかしここまで考えたところで近右衛門は何百年も誰も出来なかった治療魔法を、横島が得意と言えないこの世界の魔法で開発して欲しいなどという無茶苦茶な結論に達した自分に流石にダメだろうとすぐにその考えを捨てていた。

結局は石化された人達の受け入れを幹部会にかけることにする。

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