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麻帆良祭への道

「マスター、お茶をお持ちしました」

その日昼に学校を終えた茶々丸は早々に帰宅して、エヴァンジェリン宅の地下にあるボトル型魔法球の中の別荘にいた

しばらく使われてなかった別荘だが、数日前からエヴァが自身の呪いを解く研究を始めていたのだ

別荘の中の書斎は大量の魔道書で埋め尽くされており、エヴァはその中で呪いに関する書物を読んではノートに何かを書き込んでいる


「術式も何も目茶苦茶だ。 あの男、よほど私がうっとおしかったのだろうな」

茶々丸の入れたお茶を一口飲んだエヴァは、無表情で口を開くがその言葉に以前のようなナギを求める愛情は見えない

ナギには妻と子供が居るという真実は、エヴァンジェリンのナギに対する想いを打ち砕くのには十分だった

問題は妻が居た事ではなく、それを教えてもらえなかった事である


「奴は私が妻や子供に手を出すとでも思ったのか? 私は奴の妻になりたかった訳ではない。 ただ……」

吸血鬼の自分が人と普通の家庭を築くなど不可能だと、エヴァはよく理解している

正直妻が居ても気にしなかったし、どんな形でもナギに愛されたかっただけなのだ


「まあいい。 今更男の一人や二人で騒ぐ年でもないしな」

ナギに対して何の感情もないようなエヴァは、すでにナギへの想いにケリを付けたらしい

壮絶な人生を送って来たエヴァにとって裏切りはよくある終わりだった

真実はともかくエヴァとしては、結局ナギも他の人間と変わらなかったと諦めがついたようである


「……ん?」

独り言のような話も終わりお茶と一緒に出された中華まんを食べたエヴァだが、その不思議な味に思わず手が止まり茶々丸に視線を向けた


「美味しくありませんか? 麻帆良祭用の試作品だそうですが……」

「そんな事はないのだが、こんな物を作ったのはあいつか」

それは先日刀子達に作ったカレーの応用であるエビカレーまんだった

まろやかなフレンチカレーにエビだけをふんだんに入れたエビカレーまんは本当に美味しいのだが、本格フレンチカレーを中華まんに包むのは麻帆良では横島しか考えられない


「学校帰りに寄ったらお土産に頂きました。 あとカレーパンとおからドーナツとおからクッキーがありますがお持ちしますか?」

「今はいい。 しかしあいつも本当におかしな男だな」

何の疑問も持たぬ茶々丸だが、エヴァは物を食べれない茶々丸に食べ物をお土産に持たせる横島が不思議でならないようだ


しかしエヴァは知らなかった

茶々丸が横島にエヴァと二人暮らしをしてると、普通に教えていた事に

エヴァ自身その件は一切口止めしてないし、茶々丸も言っては悪い事だとは考えてないため普通に世間話のように以前語っていたのだ

横島と茶々丸が仲がいいのは知っているが、案外と抜けてるエヴァだった


「味の感想をお願いします」

「……悪くないな。 恐らく売れるだろう」

試作品を貰う代わりに感想を教えて欲しいと横島に頼まれていた茶々丸は、エヴァの感想を聞くとほんの少しだけホッとした表情を見せて部屋を後にしていく


「あの男に関わってから茶々丸は変わったな」

茶々丸のほんの僅かな変化にエヴァは驚きながら茶々丸の後ろ姿を見つめていた


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