このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

二年目の春・5

「そんなに信じられんか?」

「うん。」

この日は昨日よりも夜風が冷たかった。

同じ麻帆良でも大学部の近辺は戦後に開発が進んだ地域で、麻帆良らしい西洋風の街並みとは違い近代的なビルや施設が多い。

周囲には帰路に着く大学生なんかも居てここを歩いていると大学生にでもなったような錯覚を横島は感じる。

そんな横島にまき絵が唐突に恋ばなを始めたのは少なからず身近な異性である横島の恋愛に興味があるからだろうし、横島が他の学生や大人とあまりにも違いすぎるからでもあるのだろう。


「本当言うとな。 木乃香ちゃん達とかみんなにいつ嫌われるかって毎日ビクビクしてるんだぞ。 俺は昔っから女の子に好かれなかったからなぁ。 モテるとまでは思わんが好意的な女の子が周りに居る時点で不思議なほどだ。」

一方の横島は良くも悪くも純粋なまき絵に困ったような表情を見せつつも、少し本音を語り始める。

他人から見たらモテるように見えるんだろうなとは横島もそれなりに自覚しているが、現状の横島と周囲の女性陣の関係がどうなのかは実のところ横島にもよく分からない。

人を越える五感や超感覚で少なくとも嫌われてないことや好意があることは見抜けても、それが何なのか判断する経験が横島にはない。

受け継がれた彼女達の経験もこんな時に限って使えないのは横島が無意識にブレーキをかけているからか、それとも彼女達が恋愛にズルすることを認めないからかは定かではないが。


「私さ、今まであんまり悩みらしい悩みってなかったんだ。 毎日楽しくってさ。」

「俺はそれでいいと思うけどな。 いつか嫌でも大人にならなきゃダメな時が来る。 それまでは自由に好きなことしたらいいと思うぞ。 困ったらまた周りの誰かを頼ればいい。」

やっぱり横島は過去に辛い恋愛をしたのだろうと相変わらず誤解するまき絵だが、彼女は同時に横島のような人でも悩むんだなと思うと自分の悩みが少しちっぽけかもしれないと思い始めていた。

優しくいい人に恵まれて来たまき絵は今ままで大きな悩みや苦しみなどなく幸せな人生だった故に、子供っぽいという発言にショックを受けたがまき絵から見ても横島の恋愛関係は深刻な悩みに思える。


「マスターって……。」

「うん?」

「ううん。 なんでもない。」

この時まき絵は木乃香達を始めとした友人達が何故横島と一緒と一緒に居るのか分かった気がした。

何故かはよく分からないがいつの間にか横島と一緒に居るのが心地よく感じるているし、横島に大丈夫だと言われると本当に大丈夫に思えてくるから不思議だった。

ドラマや漫画のような強烈なドキドキ感はない。

けれどこんな人と一緒に居たらと考えてしまう自分が居ることに、まき絵は恋愛とはこんな形から始まることもあるのかなと少し考えてしまう。

無論木乃香達を差し置いてどうこうしたいと思うほどではないし、本当にそうなのかも分からない。

ただ一緒に居て心地いい家族以外の異性というのが初めてのまき絵は、二人で歩くこの瞬間にちょっぴり恋人気分を感じてしまいそれだけで楽しかった。


8/100ページ
スキ