二年目の春・5

「美味しそうや。」

「うん!」

夜の屋台は独特の雰囲気がある。

それは夏の祭りのような何処か高揚するような雰囲気ではないものの、冷たい春の夜風が心地よく感じるくらいの熱気や賑わいがあった。

ここの屋台は先程も説明した通りラーメン研究会の屋台であり目的は営利ではなく、あくまでもラーメンの研究なのだ。

短いと数日ほど長いと一月ほど同じラーメンを販売しているものの、基本的には常に新作や改良版のラーメンが作られているらしい。


「鶏白湯か。 おっ、美味いな!」

この日売られていたラーメンは鶏白湯のラーメンで、白く白濁した濃厚鶏のスープが中太麺によく絡み美味い。

鶏の香りが湯気と共に香りそれがまた食欲をそそるが、具も鶏チャーシューに半熟玉子にメンマとキクラゲと長ネギと麺が見えないほどのボリューム感があり、この辺りは大学生の好みといったところか。

チャーシューは少しアッサリ目だが表面を焼いているので香ばしく、半熟玉子やメンマもこのラーメンに合わせた自家製のようだ。

ズルズルと勢いよく啜ると口一杯に鶏の旨味と麺の小麦の味が広がり絶品である。


「しかしこの鶏なんの鶏だ? 地鶏の一種だと思うが。」

「おいしいとりさん?」

「食べたことない鶏やね。」

鶏白湯ラーメン自体はこの世界でも数年前からあったものだがここの鶏白湯ラーメンは、使っている鶏が違うと横島は気づきチャーシューを食べて何の鶏かと考えるが木乃香は別にして他のタマモや少女達の大多数は美味しい鶏だねとは言うがそこまで気にならないらしい。


「おおっ!? 鶏の味の違いに気付かれた!」

「噂は本当だったのか。」

「実はそれ現在大学部で新たに品種改良してる鶏なんですよ。 ゆくゆくは麻帆良というか埼玉の名産にしたいと。」

だが有名人の性か横島達は周囲の他の客や屋台の運営者達に注目されていて、横島と木乃香が鶏の味に気付くと軽くどよめきが起きる。

料理が上手いとかいろいろ噂がある横島と木乃香だが本当に味が分かるのかと疑う者はそれなりに居る。

屋台の運営者であるラーメン研究会や周囲の他の客達も興味ありげに見ていただけに、この日のラーメンの売りである品種改良中の鶏に気付かれると驚きの声を上げていた。


「ああ、なるほど。 こりゃ美味いっすね。 うちでも使いたいくらいっすよ。」

「味は問題ないんですけどね。 繁殖力が弱いのと飼育がデリケートで難しいのでまだ本格的に飼育する段階じゃないんですよ。 採算も取れませんし。」

気付かれたならばと屋台の運営者の一人が鶏の正体を明かすが、それは麻帆良で品種改良中の鶏だったようだ。

味は有名どころの地鶏に負けないと自負してるしいがまだ販売出来る段階ではないらしい。

ラーメン研究会は古参のサークルの一つなだけに、今回大学部で試験飼育してる鶏を味のテストも兼ねてもらい受けてラーメンとして販売しているようだった。


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