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二年目の春・5

「おっ、屋台があるぞ。 ちょっと寄ってくか。」

「賛成ー!!」

それからまき絵は一時間以上練習していて、一行が施設を出たのは夜九時過ぎであった。

帰りがけに先程の山部監督に挨拶をして良ければあと二日ほど同じ場所を貸して欲しいと頼むと、コーチの陣内には嫌な顔をされたが山部は快諾してくれる。

路面電車と電車を乗り継いで帰ろうと夜の街を歩く横島達だが、大学部の近辺はまだ明かりが付いてる建物も多く人の行き来もそれなりだった。

そんな時一行はたまたま大学部の施設の一角でマイクロバスを改造した屋台を発見し、学生達や学園職員で賑わっているのを見かける。

時間も時間だけに少しおねむなタマモも美味しそうな匂いに釣られたのか目が覚めたようにクンクンと匂いを嗅いでいて、横島達はちょうど小腹が空いた頃なので寄ることにした。


「うわっ!? マホラカフェのマスターが来た!」

「んな馬鹿なって、本物かよ!」

「姫に夕映ちゃんとのどかちゃんも居るぞ。」

夜も九時を過ぎた頃に中学生の女の子をぞろぞろと連れた横島は目立っていた。

賑やかな屋台の周りに設置されたテーブルには大学生や成人の男女が座っていて、ラーメンやギョーザなどを食べているし酒を飲んでる者もいる。

誰かが横島の姿を見て騒ぎ出すと途端に騒ぎは拡大していき、屋台がちょっとしたお祭り騒ぎになるのに時間は掛からなかった。


「こんばんはです。 ここは何処かのサークルの屋台なんですか?」

「ああ、麻帆良大の元祖ラーメン研究会の屋台だよ。 最近じゃ超包子があちこちに屋台出してるけど、うちは二十年近く前からやってんだぜ。」

結構な混雑ぶりなため横島達全員が座れるほどの席の空きがなかったのだが、他の客が自発的に移動したりしてあっという間に席を空けてくれる。

特に夕映とのどかは顔見知りが何人か居るようで話を聞いてみると、どうやら大学部のサークルの屋台だということが判明した。


「それにしても凄い混雑ですね。」

「二人とも夜に来ないから知らないか。 大学部の近辺は夜だけ営業するような屋台やら店が結構あるんだぜ。 安くて美味いのは超包子の専売特許じゃないからな。」

今でこそ超包子は麻帆良では知らぬ人が居ないほど屋台を増やし麻帆良の名物の一つになっていたが、元々麻帆良では多種多様なサークルがあり日頃から自分達で屋台や店を出すサークルがそれなりにあるらしい。

中には実験的な料理や個性的な料理があったりもするらしいが、学生による営業販売は昔から麻帆良では普通にあったことのようである。


「うわ~、美味しそう~。」

「奢りだ、好きなもん食っていいぞ。」

「えっ!? 本当に?」

横島はすでにどっかの学生から貰ったビールをイッキ飲みして喝采を浴びていたが、まき絵はどうしようかなとメニューを見ながらお財布と相談していた。

他の木乃香達と美砂達はすでに横島との外食に慣れていて外食時には必ず奢って貰っているので馴れたものだったが。


「そんな冗談言うかよ。 そもそも中学生と食事に来て割り勘なんて恥ずかしい真似出来るか!」

一応少女達は毎回申し訳ないと思うしお礼は言うが、横島が今ちょうどまき絵に語ってる通り中学生の少女達との外食で割り勘は嫌だというプライドが横島にはある。


「ありがとう! マスター大好き!!」

正直まき絵は小遣いが微妙に厳しい時だったらしく悩んでいたようで、横島の奢りに予想以上に喜び大好きとまで言うと横島も満更ではないようで嬉しそうだった。

まあ明日菜なんかは特にお金を稼ぐ大変さを知っているので毎回申し訳ない気持ちが強いようだが、その辺りはあやかや千鶴を含めた少女達で話をしてご馳走になるときは素直にご馳走になろうと説得したこともある。

対等な立場でと願う明日菜の気持ちも分からないでもないが、年下のしかも中学生の女の子と割り勘をして恥をかくのは横島なのだ。

しかも横島は表向きの立場でも芦コーポレーションのオーナーとしてそれなりに金持ちであり、中学生と割り勘したなんて噂されるとただでさえ支離滅裂な噂がある横島の評判が落ちるだけだった。



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