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二年目の春・5

「へー、結構練習してる人居るな。」

時間はすでに夜の七時になっていたが、この時間でも練習してる人は多い。

横島達は新体操専用フロアに行くと大学生を中心に結構な数の女性が練習に励んでいた。

選手は全員女性だがコーチの男性も何人か居るので完全に女性ばかりではないが、流石に中学生は居ないし横島と中等部の少女達が行くと注目を集めている。


「私もここ来たの始めてだよ。」

「私達は納涼祭で大学部の先輩達と親しいですから。」

まるで見学に来た学生のような一行であるが、新体操部のまき絵でさえもここは来たことがないような本格的な場所らしい。

他の人の練習の邪魔はしないという条件は付いているものの普通は隅とはいえ突然間借り出来る場所ではないのだが、夕映達が親しくしている大学生の先輩が手配してくれたというのが真相だった。


「時間もないし、とりあえず一回普通にやってようか。」

ここの施設には世界選手権やオリンピックを本気で目指してる者も居て緊張感がある雰囲気に包まれている。

横島達は隅のスペースを借り受けるとおふざけをしている時間もないのでさっそく練習に入る。


「あと最初に言っとくが子供っぽいって話は一旦忘れた方がいいな。 余計なこと考えないでいつも通りリラックスしてやってみようか。」

周囲では少女達ばかりか近くの選手やコーチ達もなんとなく横島とまき絵が気になるらしく話を聞いているが、横島は完全に開き直り自分の価値観とやり方で指導するつもりらしい。


「うん! 分かった!」

そしてまき絵だが彼女の長所は天真爛漫さとちょっとした単純さであるが、素人だと語る横島の言葉を真剣に受け止めそのまま聞き入れているのも長所と言えるだろう。

気持ちの切り替えをするように少し気合いを入れたまき絵は得意のリボンで演技をしてみるがその動きに迷いはない。


「おっ、いいな。 その調子だ。 いいか。 人の内面なんてのは早々他人には見抜けるもんじゃない。 例え先生でもな。 だから子供っぽいってのは意識しないでいいと思う。 だからまき絵ちゃんの課題は人に見せるって意識を持つことだと思うんだ。」

結果として最初は少し渋っていた横島も純粋に信じてくれるまき絵に悪い気はしないようで本気で教え始めるが、技術的なことを一つ二つ教えたところで子供っぽいと見られた評価は変わらない気がしている。

スポーツにしろ格闘技にしろ霊能にしろ心の在り方一つで結果が変わることはよくあることだし、まき絵に関しては技術的なレベルは決して低くはないと横島は感じていた。

今回横島はそんなまき絵の新体操をする時の心の在り方を少し手助けしてやればいいのではと考えている。


「横島さん、大丈夫なの?」

「大丈夫だと思う。 周りの人を見てもまき絵ちゃんは十分レベルが高いよ。 新体操は知らんが見たものを覚えて真似するのは得意なんだよ。」

一方少女達の中には流石に女子新体操を横島が教えられるのかと不安に感じてるものも居て、明日菜なんかは少し心配そうに声をかけていた。

だが横島はこの施設に来て、まき絵以外の新体操選手の練習をさっと見ていくうちに意外に教えられることが多いと感じている。

以前高畑や刀子の技を真似て使えたように今の横島ならば他人の動きを見て覚え再現するくらいならば訳はない。

まき絵には何があって何が足りないのか、朧気かもしれないがすでに見えているようであった。




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