二年目の春・4

そしてハワイでは夕暮れの時間になっていた。

船内のイベントやデッキにて景色を眺めるゆったりとした時間を過ごしていた修学旅行一行は、西の空がオレンジ色に染まるこの時をそれぞれが自由に過ごしている。


「まさか、高畑先生まであんな……。」

「それが人というものだと思うヨ。 今この瞬間にも世界には悲劇が溢れているネ。 だが何処の世界の誰でも家族や友人を犠牲にしてまで縁もゆかりもない人を救おうとなどしないものヨ。 よほどの大馬鹿者以外はネ。」

そんな中葉加瀬と超鈴音は研究も最早手に付かず、呆然とデッキにて海を眺めていた。

魔法世界の崩壊による犠牲と混乱がどれほどのものか正確には葉加瀬も超から聞いた話と未来情報でしか知らないが、それでも世界を救えるチャンスがあると聞き胸を高鳴らせた。

自分の頭脳が世界を救う一端を担えると理解した葉加瀬は葉加瀬なりに世界のため未来のために考えて来たつもりである。


「でも、結局は……。」

「魔法世界が滅んでもこの世界が滅ぶ訳ではないネ。 それがこの世界の人間の本音だと思うヨ。 それに人と人は葉加瀬が思うより遥かに分かり合うが大変ネ。 誰かが犠牲にならなければならないならば魔法世界の人が先にと考えるのも別に間違ってる訳ではないのだと思うヨ。」

世界の崩壊と比べれば犠牲も混乱も確実に少なく出来るとの自信が何故か葉加瀬にはあり、このままでは超の未来のような犠牲と混乱が訪れてしまうとの危機感があった。

ただ魔法世界ではなく地球側の視点から見るとそれは全く別の見方と意見になることを超は一応理解していて、正直なところ理解していたからこそ分かり合うことは不可能だとあの計画を立てたとも言える。

結局超は少なからず現実を理解しているが葉加瀬はあまり理解しておらず、言い方は悪いが超は未来の世界で科学者として歴史に名を遺した葉加瀬を自分の計画に利用したとも言えた。

他はともかく葉加瀬に関しては確実に超自身の行動により歴史を変えた存在であり、だからこそ超は自分を今も信じてくれる葉加瀬に密かに罪悪感を感じている。

そして自身が変えた葉加瀬の処遇によっては、今後のこの世界の未来に悪影響を及ぼすかもしれないとも考えている。



「葉加瀬、もし……。」

「超さん?」

その瞬間、超はらしくないほど影のある表情になり何かを葉加瀬に言おうとしたが言えなかった。

未来を変えたいとの想いは今も変わりないが、ひょっとすると過去をいくら変えても自分の生まれた未来は変わらないのではと超鈴音は随分前から思っている。

だが変わるか変わらないかは未来に帰らないと正確には確かめようがないし、最悪変わった未来に自分の居場所がなくても構わないとすら考えていた。

仮に変わるとしても今度はネギの運命が変わり自分は生まれないかもしれなく、いつ消えてしまうかすら分からないほど不安定な存在なのかもしれないのだ。

そんな中で超はもし未来に帰れるのならば一緒に未来に着いてきて欲しいと考えるも言えなかった。

最終的には超鈴音自身も時間を越えて未来の過去よりも悪く変えてしまったたかもしれない世界の事よりも、共に二年間歩んだ親友のことが先に気になり心配をすることになる。



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