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二年目の春・3

横島の剣は現在どもほぼ小竜姫の剣そのままであり特に純粋な剣での手合わせになるとそれはより顕著になる。

正直なところ取り立てて難しい剣ではなく限りなく基本に近いほどシンプルなものだったが、それ故に剣術に限れば変にアレンジするところなどなくそのままが一番いい。

百八つしかない人間界にある神魔界の拠点を、管理人とはいえ小竜姫の若さで任されるのは実力がなくては出来ないことだった。

まあ実戦経験の少なさから実戦ではミスをすることもあったが、剣や武術など単体の技術としてのスキルの高さは神界は元より魔界でも名が知れるほどではあった。


「強いわ。 剣で青山先輩の上を行く人がこの世に居るなんて。」

さてそんな横島の剣と手合わせしている刀子であるが、彼女は決して弱くはないし若い頃は神鳴流史上最強かとも言われる青山鶴子と共に修行に励んだだけに現時点でも実力は神鳴流で上位に入る。

ただだからこそ感じる絶対的な実力差に驚きと共に興奮を感じてしまう。


「あの人も刀子さんも強いっすよ。 お世辞抜きに。 ただし俺の剣は前の世界で武神だったひとが数百年かけて研鑽を積んだモノですから。 並ぶには少しばかり時間が足りないんです。」

自分の目指す先がこれほど遠く感じたのは刀子にとって初めてである。

だが武神という言葉とその存在を一柱ではなくひとと呼ぶ横島に驚きよりも嫉妬の感情が沸き上がりそうになったのは、横島の表情がまるで家族か恋人でも紹介するように極々親しい自然な好意が見えたからかもしれない。

しかしこの場では女であるよりも剣士としての意識が強い刀子はそんな女の意識を静めていく。


「今すぐ辿り着こうなどというおこがましいことは考えてないわ。 でも私は……。」

これを実力差と言っていいのか刀子は思わずに躊躇するが、それでも見て理解出来ないほどではないことに希望を見出だす。

足運びや体捌きは元より剣の振り方も神鳴流と基本は大きくは違わない。

ただ全ての完成度の桁が違うだけなのだ。


「じゃあ、次はちょっと趣向を変えてみましょうかね。」

そして刀子に戦う意思があると確認した横島は意味ありげな笑みを見せると、先ほどまでは受けていただけの状態から自ら動き出す。


「……!?」

先程までとは何かが違うと瞬時に悟った刀子は生半可なことでは避けることも迎撃することも叶わぬと感じ、とっさに神鳴流奥義雷鳴剣を繰り出そうとする。

しかしそれも間に合わぬと感じると一瞬の溜めが足りぬ未完の奥義で無理矢理横島を攻撃した。


「……やっぱり、使えるのね。 神鳴流も。」

横島の一撃は同じ神鳴流奥義雷鳴剣そのものであった。

ただ技を繰り出すまでの僅かな溜めすら横島は必要なく埋めようがない実力差が余計に顕著になっている。

それでも刀子はその技の間合いやタイミングから自分の雷鳴剣そのものだと悟るが、前回横島が高畑の無音拳を使って見せたこともあり驚きは多くはない。

実際刀子は未完の奥義で無理矢理威力を相殺したのでダメージはほとんど受けてなかった。


「前の時に一回見てましたんでね。 にしても今の反応は凄いっすね。」

「同じ神鳴流でも私は青山先輩の修行相手として宗家と同等の修行を積み、対人対神鳴流を意識した修行を多く積んでるのよ。 時には闇に堕ちた同門や外部に流出した使い手から神鳴流や近衛家を守る為にね。」

横島の雷鳴剣は刀子の雷鳴剣をそのまま真似ただけなので刀子も反応出来たが、それに加えて刀子が対神鳴流の修行を多く積んでいることも曲がりなりにも対応出来た理由にある。

元々青山鶴子の修行相手としてその才を認められ、将来の神鳴流宗家の修行相手として共に修行しただけに刹那や一般の神鳴流よりも対人や対神鳴流を意識した修行が多かったらしい。

ちなみに昨年末には最後の奥義だった二の太刀を会得したことで現在は青山家の一族待遇であり、実はしきたりの上では宗家の継承権すらある立場でもある。

まあ宗家には直系の鶴子や素子が居るし、直系意外でも青山家の血を受け継ぐ神鳴流は何人か居るので実際に宗家を継承することはまずないことだが。

ただ何かしらの理由で宗家や血縁に二の太刀を使える者が途絶えたりしたら刀子が継承する可能性もゼロではない。

一族と同等に扱うというのは事実上の一族入りであり昔ならば継承権が発生した者には青山家の人間との結婚まで合わせて組まれた歴史がある。


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