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麻帆良祭への道

それはかつての滅びた世界の人間界と同じ状況だった

かつて神魔が本格戦争を始めた頃、人間界ではその戦争の余波で人間同士が戦争を始めていたのだ

第三次世界大戦とも終末戦争とも呼ばれたその戦争は、神魔の争いのみならず神族間の主導権争いなども絡み、滅びに向かうと分かっていても止まらない戦争だったのだから


「連中はどこまで知ってるんだ?」

「詳しい残り時間はともかく、世界の限界が近いのは国家の上層部は承知の事実だ。 ただ問題なのは向こうの生命の大半が未完成の魔法で造られた命だからな。 魔法が消えると向こうの人間の大半は消えてしまうだろう」

絶望的な事実の連続に横島はいつの間にか無表情に変わっていた

魔法世界の状況はそれだけ危険だと言えるだろう


「具体的な対応は?」

「ほとんど進んでない。 一部の人間はこちらに逃げ出す準備はしてるようだが、根本的な対策はほとんど進んでない。 そもそも向こうでは地球から来た人間と元々居た魔法世界人は別の種族だからな。 協力関係すら築けてない」

世界の危機に対して当人達がどこまで努力をしてるのか気になる横島だったが、現状を知る限りでは呆れる以外に言葉もなかった


「誰が造った命でも関係ないだろうに…… 死ぬまで陣取り合戦に夢中か?」

「所詮は人も神が造った命だからな」

横島は魔法世界人を誰が造ったかなどあまり興味はない

横島にとっては誰が造ろうが同じ命であるし、人も神魔も同じ生命としか感じないのだ

つまらない理由で協力も出来ない魔法世界の状況はひどく滑稽に感じる


「まあ、よその世界の行く末まで俺には関係ないか。 死にたくなきゃ自分達でなんとかすればいい。 ただ明日菜ちゃんには手を出させる訳にはいかないな」

魔法世界の真実を大まかに理解した横島だったが、わざわざ自分から首を突っ込むほど物好きではない


「高畑・T・タカミチはどうする? あの男はまた必ず余計な問題を持ち込むぞ」

「当面は監視するしかないだろう。 それとじいさんの方も監視してくれ。 あの人が失脚するのはまずい」

結局横島と土偶羅は高畑と近右衛門の監視を強化することだけを決めていた

横島としては出来れば介入などしたくないが、近右衛門の失脚は望まない

従って近右衛門に対しては守る為の監視であり、高畑に対しては余計な問題を麻帆良に持ち込まないようにする監視である

同じ監視とはいえその目的はまるで違っていた


「近衛近右衛門に関しては、メガロメセンブリアでは疎ましく思ってる連中も多い。 守るのは骨が折れるぞ」

「構わねえよ。 あそこまで人生を賭けて頑張って来たんだ。 ちょっとしたイレギュラーが起きても問題ないだろ」

「ちょっとしたイレギュラーか…… 敵対する連中が聞いたら泣いて喜ぶかもしれんな」

横島が近右衛門を本気で守るつもりであることを悟った土偶羅は思わず笑ってしまう

それは相手にとっては、本当に予期せぬイレギュラーになるのだろうから


「細かいことは任せたわ。 俺は麻帆良祭のメニューでしばらく忙しいし」

二つの世界の未来すらも変わる可能性があるほど重要な話だったのだが、横島は現在も明日の仕込みの真っ最中であり頭の中は麻帆良祭のメニューで忙しい

地味な普通の喫茶店のマスターが、まさか魔法世界の未来の鍵を握るなど誰も思わないだろうと土偶羅は苦笑いを浮かべていた

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