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麻帆良祭への道

「小さい頃はよう分からんかったんやけど、京都の家はとにかく広いんや。 お父様の仕事の関係で家には巫女さんとか神主さんがいっぱいおったけど、あれも普通やって思ってたわ」

肉まんを包む木乃香は手を動かしながら語るが、その表情は珍しく冴えない感じだった

普段は明るい木乃香の寂しさというか孤独感が、横島に見えたのは初めてだったかもしれない

広い庭も大きな屋敷も木乃香はあまり嬉しそうではなく、どこか寂しさげな表情なのは過去の生い立ちにあるのだろう

父親である詠春は日本にある寺社仏閣で働く人の組合のような仕事をしてると説明する木乃香だったが、関西呪術協会を知らされてない木乃香にはそう説明されていたようである


「友達だった子も最初は一緒に遊んでくれたんやけど、途中であんまり遊んでくれへんようになったんや。 そんな頃お母様が女の子は料理が出来れば幸せになれる言うてな……」

母親に料理や裁縫や掃除などを教わった頃は楽しかったと語る木乃香だったが、唯一の友達が離れたことはその表情が更に暗くなるほどショックだったらしい

忙しくなかなか遊んでくれない父親の分も母親は一緒に居てくれたと、次の瞬間にはすぐに笑顔を見せる木乃香だったがその根底には親しい人を失う恐怖があるようだ


(元々明るく優しい性格なんだろうが、大切な人が離れる恐怖を無意識に感じてるんだろうな。 だからこそ誰にでも優しくし過ぎるのか)

木乃香の優しさは天性の性格と、後から加わった大切な人を失う恐怖があるのだろうと横島は確信していた

何と言うか木乃香は優し過ぎるのだ

ワガママらしいことも滅多に言わないし困ってる人を当然のように手助けする優しさは立派だが、年を考えると少し心配にもなる


(俺に対しても同じか……)

元々は占いに対する興味だったのかもしれないが、木乃香は気に入った人には積極的に優しくしている

横島が麻帆良に滞在して店が繁盛した理由もそんな木乃香の積極的な優しさからなのだが、その根源には離れていく恐怖があるのだろうと感じていた



「今度京都の家に帰ったらお母さんをビックリさせてやればいいよ。 この何ヶ月かで木乃香ちゃんの料理の腕前はかなり上達したからな」

「ホンマはウチ占い教えて欲しかったんやけどな~」

「大丈夫だ、木乃香ちゃんなら立派な料理人になれる!」

「すぐそうやってごまかすんやから……」

昔話が途切れた頃、横島は木乃香の料理の腕前を褒めるのだが、木乃香はいつの間にか占いより料理を教わってる自分に首を傾げてしまう

そんな木乃香に横島はまた適当な口調で料理人になれると言い切るが、木乃香はごまかされたような気がしてならなかった


「まあまあ、木乃香ちゃんが立派な料理人になるまでは俺が見届けてやるからさ」

「ウチ料理人になるなんて言うてへんよ」

勝手に料理人への道と決め付けるような横島に木乃香は若干不満げだが、横島の言葉に何故かホッとしてしまう自分に木乃香は気付く

理由の分からぬ安堵感に若干不思議そうな木乃香が、その理由に気付くのはまだしばらく先なのかもしれない


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