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二年目の春

「それでは参加する方向で話を進めるです。」

三回目の麻帆良亭の限定営業も無事に終わったこの夜、坂本夫妻と夕映は春祭りについて参加することで話を進めていた。

ただ坂本夫妻からは幾つかの確認事項などもあり、とりあえずは夕映とのどかで依頼者のサークルと話し合いをして最終的に坂本夫妻が決断するということになる。

まあ特に話し合いが難航しそうな問題はないので春祭りの参加はほぼ決まりであった。


「じゃあ、また来るわね。」

「……うん、またね。」

そして一緒に夕食を食べてこの日の報酬を渡して坂本夫妻と藤井は帰ることになるが、タマモはこの別れの時が寂しくて好きではないらしく先程から元気がない。

なかなか会えない坂本夫妻なだけに本音では帰って欲しくないのだろうが、タマモもそれを言っても坂本夫妻が困るだけなのは理解している。


「またすぐに会えるわ。 電車に乗ればすぐなんだから。 そうだ、今度来た時には庭の手入れも一緒にしましょうね。」

そんなタマモを坂本夫妻の妻は抱き上げて元気がでるようにとなだめていく。

流石に孫が居る坂本夫妻なだけに小さい子の扱いも上手いようで、あれこれと話しかけながらタマモの機嫌を直していった。

実は昨夜タマモが寝たあとに横島と坂本夫妻が話していたことだが、園芸が素人な横島が坂本夫妻の妻にいろいろ教わっていたところ近々来て直接教えてくれることになっていたのだ。

昨年は本で調べたりしてなんとかやってみたが、細かく言えばキリがないほど失敗もしている。

あんまり上手くいかないので農業系のハニワ兵に何度か来てもらってようやく形になっただけに、二年目の今年は横島もせっかくだからと家の庭に慣れてる坂本夫妻に教わることにしたらしい。


「うん! おはなもやさいもたくさんうえたい!」

「そうね。 みんなで何を植えるか考えておいてね。 約束よ。」

最終的に坂本夫妻の妻とタマモは一緒に庭の手入れをすることになり、タマモは今年の春に何を植えるか考えておくという約束をして坂本夫妻と藤井とお別れをしていた。

坂本夫妻の妻があえてタマモに仕事を頼んだことで、タマモは俄然やる気を出してしまい横島達をホッとさせていた。

タマモの場合は下手になだめるだけよりも、何かを頼む方がやる気を出して元気になることを坂本夫妻は見抜いていたようである。


「そういえばさすがの横島さんも園芸は本当に素人なのよね。」

「横島さんの出来ないほどあてにならないことないもんね。」

一方少女達は得意ではないと言いつつ基本的に何でもそつなくこなす横島が、苦手というか本当に得意ではない数少ないことが園芸なんだと改めて理解して横島も人の子なんだなと笑いながら話をしていた。

思い返してみると昨年横島が一番苦労したのは庭の野菜や花の育て方なのだ。


「実は魔法使って植物育てるなら出来るんだけどさ。」

「へー、そんな魔法もあるんだ。」

その後坂本夫妻達を見送った横島達は店に戻りお茶で一息つくが、少女達が話していた園芸の話に横島は魔法を使っていいなら出来ると苦笑いを見せる。


「好き嫌いは別にして魔法とかそっち系は得意なんだよ。」

「好き嫌いは別にしてって、やっぱり魔法嫌いなの?」

少女達は新しい魔法の話に興味深げに横島を見るが、横島は少し昔を思い出したからか何とも言えない表情で珍しく得意だと言い切る。

しかし少女達は横島の魔法に対する認識というか価値観がいまいち良くないことをすでに知っているので、その辺りは何を聞いていいのか迷いながらも魔法が嫌いなのかと尋ねていた。


「うーん、嫌いってほどでもないけど好きってほどでもない。 贅沢な話かもしれないけど、才能が無きゃないで良かったかもしれんとは思うな。」

横島の魔法というかオカルトに対する認識は今でも本当に複雑だというのが本音である。

元々オカルトが好きな訳でもなければ力が欲しかった訳でもないのだ。

あえて理由を上げるとすれば生きるために必要だったに過ぎないが、それでも世界が滅んでまで一人で生き残るような力は正直どうなんだとは思うのかもしれない。

まあ最終的に力があるからこそ平和な生活を好き勝手出来てると理解はしてるので、必要以上に嫌うこともないが。



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