平和な日常~冬~6

「こんなもんやね。」

そんな亜子の占いをしたこの日の厨房では木乃香が時々占いに抜ける横島やのどかと一緒に和食の仕込みをしていた。

メニューは京都の母から送って貰った京野菜を中心にした料理でいわゆるおばんざいという京料理の惣菜が中心となる。

横島は木乃香や刀子が居るので日頃から関西風や京風の料理を時々作ることがあるが、この日は別で本格的に作っていて実は今夜は刀子が関西から来ている東西協力の交渉団を夕食に招待していた。

交渉団に関しては麻帆良に来てすでに一週間を過ぎているが、基本的にはホテルか魔法協会で出した食事を取っている。

魔法協会でも関西の交渉団には気を使っていて会議の合間に出す食事などを関西風の味付けにしたりと努力はしているものの、そろそろ本格的な故郷の味が恋しくなる頃だろうと考えた為であった。


「まさか同じ日本の中で敵対してるなんて。」

「ほんまや、早よう仲良く出来ればええんやけど。」

料理の仕込みが終わると木乃香とのどかはそのまま煮込みなどの調理に入るが、一般家庭で育ったのどかはこの平和な現代日本の中で互いに相手を傷付けるほど敵対してる人達が居ることが未だに信じられないようである。

ただ両組織の成り立ちや歴史を見るとそう簡単に協力していけるとはのどかでも思えない。

何より両組織の争いで過去には死者まで出てる以上は、最早組織の抗争というより戦争に近いようにも感じるのだ。

正直のどかはやくざのように怖い組織なのかなとの印象もない訳ではなかった。



「今日は関西の交渉団を夕食に招待したそうじゃな。 葛葉君の手料理か?」

「私の手料理で喜ぶのは父だけですよ。 料理は横島君に頼んでます。 そろそろ京都の味が恋しいかと思いまして。」

一方同じ頃女子中等部では学園長室を訪れた刀子を近右衛門が少しからかうような言葉をかけていた。

現状で麻帆良に居る関西所属の人間は刀子と刹那のみだが、見習いの刹那と違い刀子は大人としての気遣いはせねばならない。

流石に敵地とまでは言わないが対立組織のお膝元で交渉をせねばならない関西の人々が、かなり気疲れしているのは父から聞いている。

刀子自身に関しても以前は無かった関西からの正式な報酬が東西協力の名目で昨年の末から僅かだが支払われていて、全くなにもしない訳にはいかないのが現状だった。

まあ刀子に思い付くのは麻帆良には存在しない本格的な京料理で彼らをもてなすくらいしかないが。


「それがよかろう。 結論ありきの交渉だけに苦労をかけておるからのう。」

以前は近右衛門も東西双方の交渉担当者を夕食でもてなしたが、あれ以外にも雪広と那波や魔法協会関係者との会食が何件かあり流石にプレッシャーになっていると近右衛門は少し気にしていたのだ。

関東の側としては全くもてなさない訳にもいかないし、正式な交流がなかった両組織なだけにこの機会に交流を始めたいと考えて友好的にもてなしてはいたがそれが些かプレッシャーにもなっている。

元々合意を前提にした交渉だけに交渉失敗のリスクがないのはいいが、上層部は成功して当たり前だとも見ていてそれが交渉担当者達の負担にはなっていた。

極論をいえば誰もが百パーセント納得する結果などあり得ないので、後は地道な交渉で妥協のバランスを取るしかない。

ここで難しいのは双方共にどちらかが一方が勝ったと思われる交渉結果には出来ないことだろう。

共に妥協して痛み分けくらいの結果でなければ後々に不満が出るのだ。


「それにしても、まさか私が東西の交渉に関わるとは思いませんでしたよ。 私は剣を握ることしか出来ないのに。」

「葛葉君は野心もなく下手な小細工などせんからのう。 言葉は悪いが武骨者なくらいがこの件の仲介者には適任なのじゃ。」

交渉担当者を気遣うような近右衛門の姿に、刀子は日本の魔法使いの未来を左右するような重要な交渉に自分が関わることになった複雑な心境を素直に明かす。

しかし近右衛門は下手に交渉能力などなく東西の狭間で苦労した刀子だからこそ、仲介者たる意味があると考えている。

必要なのは東西が協力して欲しいとの素直な思いであって小細工ではないのだから。


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