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平和な日常~春~

そのまま統一店舗の基本的な話し合いは終わり、レストランの細かい内容は予定通り2-Aのクラスで決めることになった

木乃香達や雪広グループ担当者などが帰った後、横島は一人で店の掃除をしつつ昔を思い出していく


「そういやあ、高校時代は文化祭に一回も参加出来なかったな……」

若い木乃香達が楽しそうに文化祭の話をするのは、見ている側の横島も楽しくなるようだった

そんなふとした瞬間、横島は高校時代を思い出していたのだ

結局三年間ほとんど学校に通わぬままに卒業した横島だったが、今思えばもったいないことをしたと後悔する気持ちもある

楽しげな木乃香達を見ていてると、学校生活も悪くないと今更ながらに気付いていた


「俺の人生は後悔の連続なんだよな~ ほんとダメ人間の見本みたいだわ」

もうちょっと学校生活を楽しみたかったと思う横島だったが、一方でそんな事を願うならばもっと後悔する事が山ほどある

恋人を失い仲間を失い世界を失った

何もかも失った横島にとって、過去は後悔の連続である

今更学校生活まで後悔してしまう自分に、横島は呆れたように渇いた笑いを浮かべるしか出来なかったのかもしれない



「あの頃からすれば今の生活は夢のように幸せなのにな」

横島は決して忘れることが出来ない過去がたくさんある

恋人の最後の笑顔の瞬間が……

仲間達の最後の笑顔の瞬間が……

そして死と破滅に満ちた闘いの日々が……


幸せな毎日の中でも横島はあの過去を忘れようとは思わないし、忘れたいとも思わない

多くの奇跡と犠牲の上で自分は幸せを得ている事実から、横島は逃げるつもりはなかった


「おっといかんな。 明日の仕込みもしないと……」

僅かにしんみりとしていた横島だったが、我に帰ったように一息つき掃除の続きをしていく

人であるはずの横島の心が今だに壊れずに前を向いていられるのは、かつての仲間や恋人が守ってるからに他ならない


そして……、いつの日か笑顔で再会するその日まで横島は横島であり続ける

それが横島に残された唯一の約束であり、プライドなのかもしれない



「おはよう、今日も早いな」

「おはようございます」

次の朝いつものように日課の庭の手入れをしていた横島は、これまた日課になった茶々丸との朝の挨拶を交わす

一見するとあまり表情が変わらぬ茶々丸だが、横島から見れば成長が分かるらしく何気に毎日楽しみにしている

純粋に成長していく茶々丸は横島の癒しの一つになってるのだが、茶々丸本人は全く気付いてないらしい


「そういやあ、茶々丸ちゃんは茶道部だったよな」

「はい、私は茶道部と囲碁部に入ってますがどうかしましたか?」

「最近夜にケーブルテレビで、前の麻帆良祭見てるからさ~ 昨日は何年か前の茶道部の野点やってたの見たんだ」

猫達がご飯を食べる姿を見つつたわいもない世間話をする横島と茶々丸だが、茶々丸自身もまたこの僅かな時間が楽しみになりつつあった


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