平和な日常~冬~5

港に一行が戻ると時間は午後三時半を過ぎた頃だった。

ちょうど小腹が空く時間であり近くにあった海が見えるオープンカフェでオヤツタイムにすることになる。


「それにしてもクジラ凄かったね。」

そこは普通にオシャレなカフェでオープンテラス席に座ると先程まで居た海が一望出来て、ついさっきまでの余韻に浸りながら美味しいスイーツを堪能する。

海の雄大さも去ることながら海の中の世界を満喫出来たことは、少女達にとって感動の連続だったようだ。

加えてクジラ型潜水艇そのものも少女達は興味があるようで何人かが横島にいろいろと質問攻めをしている。


「あれは大半が人間の技術じゃないからな。 外には出せんぞ。」

クジラ型潜水艇を地球に持っていけば大人気になると気軽に言う美砂やハルナに横島は外には出せないと軽い苦笑いを浮かべて言い切った。


「人間の技術じゃないって、なら誰の技術なの? エルフとかドワーフ?」

「超古代の魔法文明の遺産とか。」

「いっそ神様じゃない?」

人間以外の技術というのが少女達の好奇心を誘ったのか、少女達はファンタジーの物語に出てきそうな技術の持ち主を好き勝手に予想していくも残念ながら正解者はいない。


「明日菜ちゃんが一番惜しいな。 正解者は魔族だよ。 まあ正確には魔王というべきかもしれんが。」

ほとんどネタや冗談のような解答だったが、最後に明日菜が一番あり得なさそうな答えとして神様の名を上げると横島は惜しいと告げて技術の大元の存在を明かす。

その答えには事前に知っていたエヴァと刀子に魔族の意味を理解出来ないタマモ以外は、驚きのあまり冗談なのかと横島を見つめる。


「簡単に説明するとこの世界を創造しハニワ兵を造ったのも俺の世界で魔王の一柱だったアシュタロスなんだよ。 天地創造を夢見て自らの理想の世界を造る為のプロトタイプがここになる。 アシュタロスは結局死んじまって今は縁あって俺が使ってるけどな。」

ただしケーキを頬張った結果、少し口元にクリームが付いたまま語る横島の姿が会話の内容と全く合わず本当にミスマッチだったが。

夕映などはわざとかと少し邪推するが、どうも横島は素で気付いてないらしく真面目な表情で語っている。


「ん? どうした?」

話の内容に興味は尽きないがそれと同じくらい珍しく真面目に話す横島に口元についたクリームを教えるべきか悩む一同だが、悩む間もなく真っ先に横島に駆け寄り持っているハンカチで横島の口元を拭いてあげたのはタマモだった。

口元を拭くとニッコリと笑みを浮かべて満足そうなタマモに流石に横島は恥ずかしくなったのか慌て始めるが、最早取り繕うことも出来ずに少女達は爆笑してしまう。


「そんなに笑わんでもいいだろうが!」

「だって、話してる内容と全然合わないんだもん。」

「もういい! タマモ散歩に行こうか?」

タマモが横島の口元を拭く姿に麻帆良祭で有名になった木乃香が口元を拭いてる写真を思い出した者も多い。

小難しい話はよく分からなく興味は尽きないが、それでも少女達はそんなどっか抜けてる横島が好きだった。

しかし笑い者にされた横島は恥ずかしさから話を続ける気はなくなったらしく、タマモを抱き抱えるとそのまま海の方に散歩に出て行ってしまった。


「それにしても魔王とは……。」

「横島君の世界は知らないけど私たちの世界にも実は魔族が居るわ。 ただし物語のように勧善懲悪の悪ではないけど。 多分似たようなものなんだと思うわ。」

横島とタマモの姿が遠くなる頃になると爆笑していた少女達が落ち着き夕映などは横島の話の意味を考え始めるが、刀子はそんな少女達に横島から聞いた元世界の話は隠しながらもそれに近い内容を少し教えることになる。

何があって横島が一つの世界を自由にしてるのかは誰にも分からないが、よくよく考えてみると今までに横島が話した自身の過去が何処までが嘘で何処からが本当なのか全く知らないことに気付く。


「女の子にモテなかったって本人が思ってる話は本当なんでしょうね。」

「恋愛オンチは演技や嘘じゃないっしょ。」

当たり障りのない範囲でいいので本当の横島の過去が知りたいと思う少女達だが、横島の恋愛オンチだけは嘘ではなくリアルだとの意見は何故か全員一致することになる。

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