次の日夜が明けたばかりのホテルの庭を横島とタマモとさよが散歩していた。

日頃から早起きが習慣のタマモがこの日も早起きしたので散歩に出たのだが、朝の冷たくひんやりとした空気がとても心地いい。

庭は結構広いのだが芝生が敷き詰められていて後は南国の木があるくらいで広々としている。


「おはよう、早いわね。」

今日は何をしようかとタマモとさよと話していた横島であるが、意外なことに早朝のこの時間に同じく庭に出てきたのは刀子であった。


「おはようございます。 先生も早いですね。」

「少し身体を動かしておこうと思ってね。」

初めて見るジャージ姿の刀子にさよは同じく朝の散歩かと思ったようだが、刀子は散歩というより鍛練をしに来たらしい。


「私は剣士だから肉体の鍛練が欠かせないのよ。」

普通に柔軟体操をしながら軽く説明をする刀子であるが、神鳴流剣士としての修行や鍛練は今も続けていて出来るだけ毎日するようにしてるとのこと。

魂の力をそのまま使う霊力と違い、肉体を通して力を使う気はどうしても肉体の鍛練が必要であった。

特に神鳴流なんかは技の威力がある分だけ肉体への負担も大きく、最低限の鍛練は日頃から必要不可欠のようである。


「やあ、早いね。」

そのまま横島達はタマモとさよが刀子の鍛練に興味があるようなので見学というか見ていたが、そこに偶然高畑と詠春も現れるが目的は同じく鍛練らしい。

三人共に示し合わせた訳ではないのだろうが、休日も二日目になると早起きして鍛練に来るのは一種の職業病のようなものとも言えるだろう。


「やっぱり魔法も地道な努力が必要なんですね。」

「そうだね。 地道な修行は必要だよ。」

詠春が来たことで刀子は若干緊張気味であるが、流石に顔にはほとんど出さず少し表情が固くなる程度だ。

タマモとさよは魔法という不思議な力にも興味があるようで、さよはやはり努力無くしてはつかえないのだと認識する。


「こんなに朝早くから何してるんですか？」

そして三人が本格的に鍛練を始めようとした頃になると横島達の様子を偶然見つけた明日菜がやって来ていた。

彼女もまた日頃から早起きの習慣があり目が覚めたらしい。


「へー、鍛練ですか。 横島さんはしないんですか？」

高畑達が鍛練すると聞くと明日菜もまた興味があるようで眺めていたが、ふと明日菜は同じ魔法を使う横島が参加してないことに疑問を抱く。

普通に考えて横島もやるべきなのではと思うのは当然のことだろう。


「本当に最低限ならしてるぞ。 毎朝五分くらいだけど。」

「なんかラジオ体操みたいですね。 まあ横島さんのイメージに厳しい修行って合わないんですけど。」

明日菜の疑問は刀子達も多少興味があるようで耳を傾けていたが、横島は毎朝五分くらいなら鍛練をすると微妙な答えである。

僅か五分の鍛練に意味があるのか明日菜には分からないが、身体を動かしている刀子達を見ると五分だとラジオ体操でもしてるのかなと想像する。


「ラジオ体操じゃないけど、内容は似たようなものかも。 自分の力を確認してる程度だからな。」

それは検討違いに見えて意外と近いなと横島は少し笑いながら答えるが、現状の横島は自身の身体と魂を確認する程度に複数ある力を少しだけ身体に回していくだけなのだ。


「それだけで足りるの？ 普通なら力が落ちそうな気がするけど。」

明日菜達も刀子達も横島が人知れず修行に明け暮れる姿はあまり想像できないが、それにしても横島の鍛練の時間は短く刀子は若干不思議そうによく力の維持が出来るなと疑問を口にする。