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平和な日常~冬~5

その夜会合を終えた詠春は思案していた。

内容はもちろん高畑の件と魔法世界の問題であり詠春の気持ちからするともう少し時間を与えたいというのが理想だった。


「半年とはあまりに時間がない。」

加えて本日会合に参加したメンバーで唯一横島や芦優太郎と参加したことのない詠春は、妻である穂乃香から聞いていた話を頭に入れていたがそれでも驚きや戸惑いの連続だったのが実情だ。


「あれほどの情報を持つ横島君と芦社長が事を急ぐのも無理ないわね。 ただ関西の様子を思うと溜め息しか出ないけど。」

魔法世界が崩壊する最短が十年でそれに関わる問題が発生するまでの最短が半年では、普通に考えると匙を投げたくなると穂乃香は冗談混じりに口にする。

実際まだそれだけの期間があるだけ自分達は恵まれてることは十分理解するが、それでも現実的な問題に対処する形だけは早急に決めねばならない。


「欲を言えば問題発生の時期を遅らせたいんだけど。」

「魔法世界に介入するのはリスクが高すぎるだろう。」

可能ならば魔法世界の問題発生時期を出来るだけ遅らせたいとも穂乃香は考えるが、詠春は魔法世界に関わるリスクが高すぎると言い切った。

恐らく横島達ならば可能だろうと思うが、魔法世界の闇の深さを知る詠春は中途半端に介入する危険性をよく理解している。

それに最終的に魔法世界を救うならば遅延行為もいいんだろうが、見捨てることを前提にした遅延行為はどうしても良心が痛むのが本音だった。

仮に遅延行為をしなければ不可能ならともかく現状では自分達の出来ることをするのが先だろう。


「正直、横島君なら魔法世界を救えるのかもしれないんだけどね。」

「問題は救った後の方が山積みだからな。 将来を真剣に考えるならば連合も帝国も国家としての問題が多すぎる。 少くとも世界の危機を放置した責任は取らせる必要があるが、それをやるにはまず連合も帝国も現状の国家を否定しなきゃならないから向こうの世界を根底から変えなきゃならない。 それこそアメリカにでも頼まなきゃ無理だよ。」

魔法世界の問題は本当に頭の痛々問題であるが、穂乃香は横島ならば何かしらの根本的な救う手段がある気がした。

しかし詠春は問題は魔法世界を救う後にもあると告げると、根本的な問題として魔法世界の現状の体制は問題だと告げる。

流石にかつて魔法世界を救っただけに詠春は魔法世界の問題には詳しいが、メガロもヘラス帝国も国民を騙し危機を放置する体制は変えなければ救った後に新たな問題が起きる可能性が高い。

下手に魔法世界を救えば横島がアリカの二の舞になりかねないだけに、魔法世界を救って欲しいとは詠春でさえ口が裂けても言えなかった。

堅物な詠春がいっそのことアメリカにでも頼まなければ無理だと語る辺り問題の根深さが伺える。


「それと問題はクルト君かもしれないな。」

「タカミチ君は?」

「タカミチ君も心の中では理解してるはずだ。 魔法世界を救うのは魔法世界の人々の役目だと。 タカミチ君がナギの後継者として活躍するのは下手をすると逆効果になりかねない。 しかしクルト君は……」

かつての大戦が終わって約二十年が過ぎガトウを亡くして約十年になるが、高畑が成した功績は計り知れなく大きい。

しかしそれは言い換えればナギという過去に魔法世界の人々が未だに捕らわれ期待する原因にもなっていると詠春は見ていた。

世界が危機に陥ったからと言って助けてくれる英雄など存在しないことを、魔法世界の人々はいい加減知らなくてはならないのだ。

ただここで詠春が気になったのはクルトのことである。

頭が切れるクルトからすると周りはみな愚かに見えるのかもしれないが、クルトの行動はかつて世界を救ったアリカをハメたメガロメセンブリア元老院と大差なく周りから見て大義すら見えない。

言い方は良くないが神輿は薄汚れては誰も担がないのだ。

クルトに人の上に立つ能力がないとは言わないがメガロメセンブリア五千万人を束ねるのはどう考えても無理だった。

下手をするとクルトの存在が魔法世界を救う邪魔になる可能性すらあると詠春は思う。


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