平和な日常~冬~5

「万が一を考えると厄介だし、いっそのこと今のうちに明日菜ちゃんの能力封印しちゃいますか?」

そのまま近右衛門達は今年の夏までに何を急ぐべきか話し合いを始めるが、横島は一人明日菜のことを考えていた。

現状では明日菜に危険が及ぶ可能性は限りなく低いが、万が一明日菜が誰かに目を付けられても姫御子としての能力がないとただの人でしかなく利用価値はない。


「特定の能力の封印など可能なのか?」

「可能っすよ。 あの世界にはない技術ですから、封印の存在すら誰にも気付かれないと思います。 加えて今後明日菜ちゃんが魔法や気を習得して使うことにも問題はないですしね。」

相変わらず魔法世界にはあまり興味のない横島はいかに自分の周りを安全にするかを考えており、明日菜の姫御子としての能力の封印を提案すると近右衛門達は驚きながらもそれを真剣に検討する。


「後は容姿なんかが似てるんで昔を知ってる人には気付かれる可能性がありますけど、能力さえなきゃ他人のそら似……いやいっそ明日菜ちゃん本人を姫御子の影武者とでも出来ますよ。 そうすりゃ容姿の件も誤魔化せますし。」

確かに姫御子の能力さえ無くなれば明日菜を格段に守りやすくなるが、横島は更にそれ以上の策を考えていき最終的には万が一の際には明日菜本人を姫御子の影武者として扱うべきかと口にした。

本物の本人を偽者にしてしまうことで本物が別に居ると思わせることが出来ると語るが、近右衛門達は横島の徹底的なやり方に驚きと共に素直に感心してしまう。

まあ普段からこのくらい真剣に考えてくれたらと半ば愚痴も同時に浮かぶが。


「最悪の場合で本人を影武者か。 えげつないほど徹底しとるの。」

「このくらいしなきゃダメっすよ。」

日頃の横島はどうしても甘さが目立つが徹底することは徹底するのだと近右衛門達は始めて知った気がする。

尤もよくよく考えてみると木乃香の料理大会の際などにも横島は徹底していたのだが。


「その方がいいだろうな。 利用価値さえ無くせば普通に生きられる。」

最終的には近右衛門達も土偶羅も反対しなかったことから、明日菜の姫御子としての能力は横島により封印されることが決まる。


「それは構わぬが高畑君には封印のことは教えるのか? もしかすると彼は……。」

ただここで問題になったのはやはり明日菜の能力封印を高畑に教えるべきかと言うことだ。

現状で高畑は明日菜を守る姿勢を見せているが、本当に魔法世界が危機に陥っても変わらないかまでは誰にも分からない。

単純に考えて隠せば隠したで後々の高畑に不信を抱かせる可能性もあるし、話して明日菜の正体が露見するリスクが高くなるのも考えものだった。


「教えてもいいんじゃないっすか。 高畑先生の性格上密かに情報を流したり学園長先生を騙すような真似はしないでしょう。 魔法世界が救いたいならば学園長先生や明日菜ちゃんに正面から話すと思いますし。」

「しかし高畑君は嘘が下手じゃからな。 世界樹の地下のあれを教えられん訳はそこなんじゃよ。 ワシも高畑君が卑怯な真似をするとは思えんが、第三者に見抜かれる可能性はあるからのう。」

その後明日菜の守りを徹底することに異論は出ないが、高畑に教えるかはどうしても意見が分かれてしまい議論が停滞する。


「正直言えば私は彼にはどちらに着くのか早く決めて欲しいですわ。 問題は神楽坂さんの未来に限らず地球の未来にも影響が及びます。 今後何かあるたび彼の扱いが問題になるのは避けたいのが本音です。」

そして議論は高畑が最終的にどちらを優先させるのかという点に推移していく。

高畑を信頼する近右衛門や詠春はともかく、那波千鶴子はいい加減高畑には立場を決めて欲しいと告げた。

確かに高畑の戦闘力は必要だが、リスクを考えると始めからあてにしない方がいいとも考えているようだ。

しかし高畑の場合は人柄や魔法協会への貢献度からも簡単に決める問題ではなく、継続して議論することでこの日は納めるしかなかった。


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