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平和な日常~冬~3

「あの二人本当に絵になるね」

一方会場の隅で横島と木乃香が踊るのを見ていた少女達だが、まるで二人だけの世界を作り出したような雰囲気の二人を見てそれぞれにいろいろな想いを感じていた。

見た目は大学生と中学生のカップルのように見える横島と木乃香だが、麻帆良ではよくあるとまでは言えないが珍しくはない組み合わせだ。

一般的にはなかなか大学生と中学生が知り合う機会はないが、麻帆良では麻帆良祭やサークルなどで割と知り合う機会が多い。

例えば美砂達のようなチアリーディング部は大学部や高等部の応援に行くし、運動部なんかだと学校を越えた共同練習もさして珍しくないのである。

従って少し年の離れた未成年のカップルは時々見かける光景だった。


「木乃香もちょっと天然が入ってるからね」

なんとなく羨ましいような少し悔しいような様子なのは美砂と桜子で、あまりに自然な形でダンスを踊る二人に目を奪われている。

円はそんな友人二人を少し苦笑いを浮かべて見守っているが、肝心の木乃香が少し天然であることに笑ってしまう。

はっきり言って横島と木乃香の関係は並の恋人以上に親しく夫婦かと突っ込みたくなる時があるが、当人同士は友人か親友程度のつもりなのだから。

まあそれを言えば横島は身近に居る女の子にはみんなそんな感じで、下手な恋人よりはよほど信頼関係を築いてしまうのだが。

尤も横島が良くも悪くも変なのは今更で、円や美砂達からすると木乃香が意外と自分と横島の距離を理解してないことが可笑しかった。

少し前に木乃香が新堂や千鶴に対して軽い嫉妬を感じていたことに彼女達は気付いているが、美砂達からすると木乃香はそれ以上なのにと思うと笑うしか出来なかったことがある。


「実際に木乃香が横島さんに近い理由はそこですからね。 下手に形を作ると壁を作られてしまいますよ」

「でもさ、そんなこと言ってる間に誰かに盗られたらどうするの? マスターってお人よしな上に押しに弱いし」

自分の立場に気付かぬ木乃香に少し困ったように笑う美砂達だが、夕映はそれが木乃香が横島に近い秘訣だと言い切る。

実際には夕映もあまり人のことを言えなく美砂達は何とも言えない表情になるが、夕映は木乃香と横島の関係が近い理由を客観的に理解していた。

ただ美砂達はいつまでも現在の関係のままで居られるなんて考えてなく、放っておけば誰かに割り込まれると思っている。


「それは……」

現実問題として見た目も性格もそこそこ良く資産があり料理人としても評価が高い横島は、男性として結構な有望株だと麻帆良では見られていた。

まあ特定の恋人が出来ない理由は以前にもちらりと説明したが恋人ではと噂の女性が複数居ることと、タマモという子供を育ててることだ。

加えて木乃香達はあまり理解してないが、横島を狙いそうな女性が来る時間は常に木乃香達かタマモが一緒なのでそれが牽制になっているからなのだが。


「あの……、仮に木乃香が自分の気持ちに気付いたとして、美砂さん達は諦めるんですか?」

いつまでも現在の関係は続かないと言い切る美砂の言葉に夕映は言葉が詰まってしまうが、そこに遠慮がちに疑問を投げかけたのどかの言葉に美砂と桜子は凍りついたように固まってしまう。

実のところ美砂も桜子も現状に不安を感じるが、かと言って友人同士での愛憎劇を繰り広げたい訳ではない。

はっきり言えば第三者には絶対渡したくはないが、それ以上はどうしようかあまり深く考えてなかったりもする。

結局のどかの一言に答えが出ぬままその話は静かに終わるが、まさか木乃香が横島に自分から一歩踏み込んだとは誰一人思いもしなかった。



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