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番外編・ネギまIN横島~R~(仮)

《とある老人の夢の続き》


「ちょっと散歩に行ってくるよ」

それは三月に入り暖かい日差しが気持ちよく感じるようになったその日、私は日課となっている散歩に出かけた。

数年前に定年退職して以降は家でごろごろとしてることが多かった私だが、日課の散歩だけは毎日朝晩の二回続けている。

まあ散歩と言っても近所の顔なじみのところに寄って時間をつぶしているだけなのだが。


「そうか、辞めてしまったんだったな」

いつもと同じ道を歩き学生時代からの友人の家で将棋をした私は、そのままの流れで一軒の店の前まで来ていた。

そこは長い間ご愛顧ありがとうございましたと、書かれた貼紙が入口のドアに寂しく貼られている元洋食屋である。

私が生まれた時からあったその店は、私の人生そのものと言えるほど身近な存在だった。

幼い頃から両親と共に誕生日の外食をしたのは決まってその店だったし、成人してからは私が子供達を連れてよく来たものだ。

定年退職してからはここで一杯のコーヒーを飲み、季節によって彩りを変える庭を見るのが何よりの楽しみだった。

店主の夫婦とも長い付き合いで、よく一緒にコーヒーを飲んで話し込んでいたのはつい最近まで日常のことだったのだが。


「これも時代の流れか……」

ファーストフードやファミレスなどというものが出来て以来、この店は年々活気が無くなってしまった。

私の若い頃は学生達が馬鹿騒ぎをして当時の店主に怒られるのは一種の風物詩だったが、ここしばらくはそんな光景は見たことがない。


「潮時なんだよ。 今はまだやれる自信があるが、誰かに引導を渡されることだけは避けたい」

ここの店主が店を辞めると聞いたのは去年の暮れのことである。

確かに店主は年老いたが、まだまだ料理の味は落ちてないし常連もそれなりにいた。

私のように引き止めた者も多かったと聞くが、店主は引き際なんだと語って最後まで聞き入れてくれなかった。


「ここも流行りの店になるのかな」

店主が引っ越した後で風の噂で聞いたところによると、この店は時期に改装されてしまうらしい。

きっと流行りの店にでもなるのかと思うと、思わず目頭が熱くなるのを抑えきれなかった。

長生きなどするものではないなと、ふと亡くなった両親や妻を思い出し私はその場を後にする。


「へ~、いい店っすね」

そんな去り際に私は不動産屋と一緒に店を見に来た一人の青年と出会う。

彼は赴きのある店の外観に嬉しそうで懐かしそうな笑顔を見せると、不動産屋の親父の説明に耳を傾けていた。


「よほど愛されてた店なんでしょうね。 建物が別れを悲しんでますよ」

そのまま不動産屋の説明を聞いていた青年だが、まるで自分の恋人にでも会ったかのようにそっと店の外観に手を沿えると不思議なことを口にする。

確かにあの建物は店との別れを惜しんでるのかも知れない。

言われてみると私もそう見えてしまうのだから不思議だったのだ。

願わくば彼のような人にあの店を受け継いでほしい。

例え店の姿形が変わっても、新しい形で受け継いでほしいと願ってしまう。



「建物が悲しんでるか」

いつの間にかしばらく建物を眺めていた私の視界からは不動産屋と青年は姿を消していた。

私は悲しむように見える建物が、いつの日か喜ぶように見える日が来ることを願いつつその場を後にしていく。

またいつかこの場所が賑わう日が来るのを夢見て。



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